薬師見習いの恋
 タニアやリリアン、ジゼールもクレマも手伝ってくれた。タニアの恋人のルタン、その友人のサミエルも手伝ってくれた。マリーベルの助手をしてくれたり手分けして薬草を摘みに行ってくれたり。取り尽くしてしまったとしても、今は使えるものを使うしかない。

 薬を届けるのはエルベラータも自らやってくれた。彼女は一度かかっているから免疫があるのだという。
 屋敷に対策本部が設置され、モリスがその陣頭指揮に当たり、アシュトンがその補佐をした。

 エルベラータも薬作りを手伝ってくれた。彼女は薬学書が読めるので、読みながらマリーベルの助手を務めてくれた。
 免疫があるとはいえ不安だ、と彼女はポマンダーの中身の入れ替えをマリーベルに頼んだ。抗菌効果のあるティーツリーとヤロウ、ミント、ルーを中に入れて渡すと、彼女はそれを腰のベルトにつけた。

 マリーベルはマスク代わりに布を顔の半分に巻き、薬の調合をする。
 特効薬がないから、熱さましや咳止めを処方する。

 翌々日には屋敷の使用人も半数以上がエンギア熱を発症した。幸いにもアシュトンとハンナは感染していないというが、時間の問題だと思われた。

「アシュトンなら若いし体力もあるから、命までは大丈夫だろうけど、奥様は持病がおありだし、危ないわ」
 マリーベルは心配でならないが、かといって屋敷に様子を見に行くこともできない。

 できる限り早く薬を調合してなるべく多くの人に渡すのが今の彼女の使命だ。
 だが、在庫はすぐに尽きた。柳やキナの木の樹皮から作られる薬は解熱や鎮痛作用があるが、さほど持っていなかった。ロニーが月露草で作った薬も減る一方だ。

「全員に薬を配るのは無理だ。老人と子供を優先しよう」
 エルベラータの提案に、最初、マリーベルは反対した。だが、急増する患者数にすぐに彼女が正しいと思い知る。
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