薬師見習いの恋
「おばあちゃんが……」
「マーゴットさんが? どうしたの?」
 聞くまでもないかもしれない。だが、聞かずにはいられなかった。

「すごい熱が出て、咳が出てて、喉がすごい痛いって。呼吸も苦しそうで……」
 エンギア熱の特徴だ。

「お願い、薬をわけて! おばあちゃんを助けて」
 あふれる涙を拭いもせず、タニアはマリーベルにすがりつく。

「大好きなおばあちゃんなの、子供のころは一緒に遊んでくれて、お料理を教えてくれて……」
 ひっく、とタニアの喉から嗚咽がもれる。

「お願い、助けて……」
「タニア……」
 マリーベルはなにも言えずにタニアを抱きしめた。

 しょせん自分はまがい物の薬師だ、と唇を噛んだ。村人より少し薬の知識がある、だからなんだというのだ。まったく一人前ではないし、どうしたらいいのかわからない。

 ただただ自分の無力さを呪った。
 ロニーならきっと次善の策をさっと出すに違いない。どの薬草がどの効果をもつか熟知しているのだから。

 ロニーを呼びに行ったフロランはいまどこにいるのだろう。
 うまく会えずに行違ってしまったのだろうか。

 もしそうだとしても、誰かお医者様を呼んできてくれないだろうか。軍医にも連絡をすると言っていたが、いつ来るのだろうか。小さな村だから見捨てられてしまったのだろうか。
< 72 / 162 >

この作品をシェア

pagetop