薬師見習いの恋
 すでに軍の一部が先遣隊として来たがその中に軍医はおらず、村の境で人が村外に出ないように見張りをするばかりだ。これは感染を村外に出さないための対策で、根本的な治療の対策にはなっていない。

「薬を作るから……頑張るから」
 マリーベルはタニアにそれだけしか言えなかった。

 どうしてこんなことになってしまったんだろう。
 どうして。
 その問いに答える者はいないし、深く考える暇もない。

「とにかく薬を……」
 マリーベルはタニアから離れようとして、めまいを感じてしゃがみこんだ。

「マリー」
 タニアが心配そうに声をかける。
「大丈夫」
 発病者が出て以来、ろくに眠れていない。

 昼は薬を作り、夜はろうそくの灯を頼りに薬学書を見て、使える薬草はないかと考える日々だった。
 だけど、倒れている暇はない。

「薬を作らなくちゃ……」
 立ち上がろうとするマリーベルをタニアは支える。

「ごめん、マリー、だけどお願い、あなたしか頼れないの」
 タニアは涙の残る声で懇願する。

 マリーベルは頷くが、すぐにまためまいでしゃがみこむ。
 神様お願い、あとでいくらでも倒れていいから、今は、この病気にかかった人たちが治るまでは。
 マリーベルは願いながらまた立ち上がろうとして、座り込んだ。
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