薬師見習いの恋
 どうして力が入らないの。
 どうして。
 マリーベルが再度立ち上がろうとしたときだった。

「マリー!」
 叫び声とともに家の扉が開いた。

 振り返ると、息を切らした男性が立っていて、彼女は声もなく彼を見つめた。
 疲れのせいで幻を見ているのかと思った。

 美しい銀髪は陽光を受けて水が反射するようにきらきらと輝き、ブルーベルのような青紫の瞳はまっすぐにマリーベルを見つめている。

「ロニー……本当に?」

 彼はつかつかと歩みよると、マリーベルをぎゅっと抱きしめた。

「ひとりでよく頑張りましたね。これからは私がいます」
「ロニー、材料がないの。なのにマーゴットさんも、みんなも大変で」

「薬も材料も買ってきました。軍もすぐに追いつきます。軍医もいますし、薬も持って来てくれますよ」
 ロニーの優しい声が響く。

「良かった……」
 直後、力がぬけてふにゃりと倒れ込む。

「マリー!」
 近くにいるはずのロニーの声が遠くから聞こえ、そのままマリーベルは意識を手放した。
 
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