薬師見習いの恋
気がつくと、周囲は真っ暗だった。
目が覚めたマリーベルはぼうっと周囲を見回す。暗くてよくわからない。木戸が閉められているようで、隙間から漏れる日でようやくなんとか室内の様子がわかる程度だった。
目をこすり、体を起こしてからはっとした。
寝てしまっていたのだ。ロニーが来る夢まで見てしまった。
すぐにベッドを降りてドアを開けると、作業部屋の明るさに目がくらんだ。
目が慣れたあと、初めに見た人物に驚愕した。
ロニーがいた。周囲には揃いの黒い服を着た男性たちがいて、顔の下半分を布で覆って作業をしている。
マリーベルは言葉を失った。
ロニーが来たのは夢だと思ったのに、夢ではなかったらしい。
「起きましたね。体調はいかがですか?」
「私、寝てしまったのね。ごめんなさい」
「ひとりで大変だったんです、ゆっくり休んでください」
「もう大丈夫だから。この方たちは?」
「国軍の衛生兵ですよ。薬の作成を手伝ってくれています」
いかつい男性たちが数人いるだけで部屋は狭く見える。
「エルベラータ様はどちらに?」
「彼女も発症してしまって、屋敷で休んでもらっています」
「免疫があるのに?」
「免疫はないはずです。エルベラータ様は罹患したことがありませんから」
マリーベルは驚いた。彼女は嘘をついてまで下っ端がする仕事をしてくれていたのだ。そんな王女様なんて聞いたことがない。
「私も手伝うわ」
「今はまだ休んだ方が」
「じっとしてられないわ。簡単なことだけでもさせて」
「あなたらしいですね。では、こちらの解熱薬をルスティカ様の屋敷に届けて、様子を見て来てください」
ロニーは優しく微笑み、薬の包みをマリーベルに渡す。
「わかったわ」
薬をかごに入れ、マリーベルはすぐに家を出た。