薬師見習いの恋
「アシュトンに話があって」
 ルタンが顔をしかめて言う。いい話ではないのだろう。そもそもエンギア熱が村に蔓延してからというもの、いい話は一切聞かない。

「奥様はご無事?」
「徹底して隔離しているから、まだ感染していない。ポマンダーのおかげかしら、なんて言って笑ってるけど」

「あれは気休めだから……だけど無事でよかったわ。みなさんの薬を持ってきて、さっき渡したわ。症状の重い人に優先して飲ませてね」
「わかった」

「エルバ様のお加減は?」
「熱が出てるけど、ほかの人よりは元気そうだ」

「そう、良かったわ」
「だけど……」
 アシュトンは顔を暗く伏せる。

「どうしたの?」
 アシュトンはルタンとサミエルと見て、ふたりと頷き合う。

「あの王女が村を滅ぼそうとしているという話がある」
「ええ!?」
「静かに!」
 アシュトンは口の前に指を立て、マリーベルは慌てて自分の口を手でふさいだ。

「考えてもみろよ、あの王女が来てからおかしいんだ。感染している医者を連れて来て、わざと病気を流行らせたんだよ」
 ルタンが確信したように言う。
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