薬師見習いの恋
「エルバ様だって感染しちゃったじゃない」
「あいつは前に一度かかってるから軽症で済む、それも計算のうちだろう」
 アシュトンが言う。王女に対しての敬意のない発言にマリーベルは目を丸くした。

「だけど村を滅ぼす必然性がわからないわ」
「噂では、王女は薬を学ぶ学校を作ろうとしていたらしい」
 サミエルが言う。

「そうなの?」
 尋ねるマリーベルにアシュトンは頷く。

「だけど、その計画はとん挫している。そこへこの病気だ、治療する人員を育成する必要がある、だから学校を作ろうといういい宣伝になるじゃないか」
「……そんなことする人には見えないわ。そんなことをしてなんの利益があるというの?」
 快活に笑うエルベラータを思い出してマリーベルは言う。

「自分が善い王女だと思われるためだろうさ。マリーは知らないだろうけど、貴族なんて腹の中を隠して笑顔で表面をとりつくろうのが普通なんだ」
 アシュトンは暗い顔をしていた。

「目的のために病気をはやらせて村を滅ぼすつもりなんだ、でなきゃ軍を使ってまで村人を閉じ込める必要性がわからない」
 ルタンが悔し気に言い、マリーベルは首をかしげた。

「閉じ込める?」
「病気を外に出さないためだと言って外出禁止にしている。畑に行くことも禁止なんておかしいじゃないか」
 サミエルの声には憤りがあった。
< 78 / 162 >

この作品をシェア

pagetop