薬師見習いの恋
「感染者を増やさないためなのよ」
 聞いた知識でマリーベルは答えるが、ルタンは納得してくれない。

「俺は医者を呼びに行くために出ようとしたら、槍で脅されたんだぞ!」
 マリーベルは絶句した。そんな暴力的なやり方をするなんて。

「そこにはオレもいた。丸腰の俺たちに武器を向けるなんてどう考えてもおかしい。外に出たら槍で殺される、中にいても病気で殺される! どうしろっていうんだ!」
「いっそ王女を殺して……」
「いや、殺したら終わりだ。人質にとって軍を撤退させるんだ」
 物騒な話にマリーベルは息を呑んだ。

 感染を広げないために、みんなを守るために行動を制限しているのに、感染は防げないどころか広がっていく。人々が怒りをため込み、爆発したとしてもおかしくはない。
 とにかくふたりをなだめようとマリーベルは言葉を継ぐ。

「でもロニーを呼び戻してくれたし、軍の人も一緒に薬を作ってくれているわ。エルバ様に免疫があるというのは誤解よ、免疫がないのに手伝ってくれたのよ」
「助けるフリだろ。それでもダメでした、という言い訳をするんだ。王女のせいでマーゴットさんは苦しんでるっていうのに!」
 ルタンが憎々し気に言う。彼は恋人の祖母である彼女と親しくしていたから人一倍心配なのだろう。

「あいつなんか信じられるか。軍が王女の分の特効薬だけ持って来てるらしいじゃないか」
 サミエルが吐き捨てるように言う。

「ロニーは王女と恋仲だっていう話じゃないか。お前は利用されてるんだ」
 アシュトンから発せられた言葉のナイフはとどめのように容赦なく心に突き刺さった。この場面でふたりの恋をつきつけられるとは思ってもみなかった。
< 79 / 162 >

この作品をシェア

pagetop