薬師見習いの恋
 エルベラータは本当に策謀を働かせたのだろうか。ロニーはそれに協力したのだろうか。愛する人のために、村人を犠牲にして。
 違う。ロニーもエルベラータもそんなことをする人じゃない。

 そう思うのに、アシュトンたちの言葉が妙な真実味と重さを持ってマリーベルにのしかかる。
 アシュトンも、ルタンもサミエルもよく知っている。彼らが嘘を吐くとは思えない。

「私が薬でなんとかするから……」
「薬は足りなくて若いと薬がもらえないじゃないか。そもそも薬を飲んでも治ってない。本当に薬なのか?」

「特効薬がなくて解熱剤や咳止めで症状を軽くするしかないのよ」
「それすらも効いてないけどな!」

「強いお薬はもう在庫がないの、急ごしらえのものでは効果が弱くて……でも、ロニーが戻って来てくれたし、軍の人がいろいろ薬も材料も持って来てくれたから、きっと大丈夫よ」

「でもその薬が偽物だったときは」
「絶対に偽物なんかじゃないわ!」
 言葉は疑心暗鬼になっているふたりには届かない。ルタンは疑いの目でマリーベルを見る。

「お前も王女とグルなのか? だから効かない薬を配ってたのか?」
「違うわ!」

 あんなに必死になって薬を作って来たのに、信じてもらえない。病気はこんなにも簡単に人の心をすさませてしまう。
「……ちょっとふたりで話をしよう。ルタン、サミエル、今日は帰ってくれるか」

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