薬師見習いの恋
「しかし」
「頼む」
 渋るルタンにアシュトンが重ねて頼むと、サミエルはルタンの肩を叩いた。

 ルタンは頷き、サミエルとともに応接室から出て行く。
「今の話、本当に信じてるわけじゃないよね?」
「どうかな」
 アシュトンは濁す。彼はエルベラータを、ロニーを疑っている。マリーベルにはそれだけで充分な恐怖だった。

「私がなんとかするから」
「どうやって?」
「もっと効きそうな薬草の場所を知ってるの」
 軍が来てくれて、人手は足りた。今なら月露草を採りに行くこともできるだろう。

「それはどこだ? 俺も行く。いや、もっと人手を募ろう」
「ダメよ、人がたくさん来ると枯れてしまう繊細な薬草なの」
 慌てるマリーベルに、アシュトンは怪訝な顔をした。

「まさか森の中か?」
 言われて、マリーベルはびくっとした。

「そうなんだな。やめろ、森は大きなイノシシ型の魔物が出ると確認されていて、まだ退治されていない。偵察の報告によれば一撃で木をなぎ倒したそうだ。大きな角を持ち、背中には大きな銀色のトゲがある。危険だ」

 やはりあれは魔獣だったんだ。
 そうは思うが、薬草の場所が分かっているのに行かずにはいられない。ルタンたちのようにすさんだ人たちをそのままにしておけない。
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