先輩は、はちみつの香り
「あれっ、矢牧やよいちゃん、だよね?」
目の前に突然現れたのは、
見覚えのある可愛い顔の女の子。
矢代さんの姿。
「っ、や、しろ、さん」
矢代さんを見た瞬間、察してしまった、
〝2人〟で帰るところだったんだって。
見てるだけで充分なのに。
やっぱり、こういうのは、正直キツイ。
そもそも、消しゴムを拾わなければ。
〝はちみつ王子〟と話すこともなかったし。
今の、この状況を見なくても済んだ。
ぜんぶ、全部、夏川先輩のせいだっ。
もう、泣きそうで、でも。
(......っ、泣く前に帰らなきゃ、)
心の中でそう思って、
なんとか涙をグッと堪えたまま。
「私、もう帰りますんで!」
夏川先輩に掴まれていた手首を、
少々強引に引き抜くと。
私は風を切るように、教室まで戻って。
慌ててカバンを取って、
校門を過ぎるまで、全力で走った..................