The previous night of the world revolution
「…あれが、ルシェの弟か。ひ弱そうなガキだな」

「…学校からの推薦書を見るに、お前にも負けず劣らずの実力はあるようだがな」

「学校の推薦書なんて信用出来るかよ。色をつけて書いてるに決まってる。まさか今期の卒業生で有能な人間はいませんでした、なんて書いたら、面目丸潰れだからな」

「控えよ、アドルファス殿。帝国騎士官学校は我が国で最も歴史のある名門校だぞ」

同席していた女性に睨まれて、アドルファス殿、は肩を竦めた。

壇上に上がっている俺は、勿論聞こえるはずもない会話だが。

来賓席に座って、俺をじっと見つめるその人達は…俺がこれから入団する予定の、帝国騎士団の面々であった。

しかも、そこに座っているのは。

「まぁ、名前は立派だし推薦書だけを見れば遜色ないんだろうが…。如何せん、ガキだぞ?」

厳かな式であるはずなのに、彼はまるで、緊張感がなかった。

その人の名は、アドルファス・ウィズ・ダルタニアン。帝国騎士団三番隊の隊長である。

更に、その言葉に答えたのは。

「年齢が若過ぎるのは確かに問題だな。あのような若造に、隊長が勤まるとは思えん」

帝国騎士団八番隊隊長、ユリギウス・エルダ・アスタローシェである。

アスタローシェの名を持つ彼女もまた、ウィスタリアと並ぶほどの名家の出だ。

「…とはいえ、帝国騎士団は実力主義。実力のある者が年齢によって評価されないなら、それは帝国騎士の士気を下げることに繋がるのではないか」

と、異議を唱えたのが、帝国騎士団五番隊隊長、リーヴァ・アギリス・ヘルブラット。

「何より、彼の実力のほどについては…彼女が、よく知っているのではないか。…ルシェ殿」

「…そうだな」

リーヴァの問いに答えたのが、俺の姉。

帝国騎士団二番隊隊長、ルシェ・エリザベート・ウィスタリア。

「確かに、推薦書に書かれてあるだけの実力はある。それは私が認める。だが…私が何を言っても、身内贔屓にしか聞こえまい」

「…まぁ、そうなるわな」

何故この場に、泣く子も黙る帝国騎士団の隊長連が、五人も集まっているのか。

毎年、帝国騎士官学校の卒業式には、帝国騎士団を代表して隊長達が呼ばれる。

だが呼ばれるのは、精々二名程度だ。

それなのに今年は、五名にも及ぶ隊長達が集まっている。

その理由は…俺を、見る為だった。

「…分からないなら、確かめてみる他ないな」

そして、五人目が静かにそう言った。

他の隊長達は、黙ってそれに従った。

何故か。

「この後、彼を招聘しよう。見て確かめれば、納得も出来る」

彼こそが、帝国騎士団一番隊隊長。

帝国騎士団長、オルタンス・イデア・トゥーランドット、その人だからである。
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