The previous night of the world revolution
「…はぁ、うまー…」

「…」

この上なく幸せそうな顔でプリンを掬う男は、数日前、天下の帝国騎士団長と死闘を繰り広げた強者には見えない。

ただの、しがないスイーツ男子だ。

しかも顔が緩みきってるから、かなりアホっぽく見える。

俺は一体何をやっているのかと、今一度考えてみたが。

…いや、もう考えるのはよそう。

「プリンって、食べると幸せな気持ちになりますよねー…」

「…良かったな」

それだけ喜んでもらえたら、鶏の皆さんも牛さんも本望だろう。

手土産、プリンにして良かった。

程よく冷えたそれを、ルシファーはもぐもぐと食べていた。

と言うか、さっきあれほど甘いもの食べておいて、よく入るな…。甘いものは別腹とは言うけども。

「…ところで、ルシファー」

「はい?」

遊ぶのも良いが、やはりスパイとしての仕事も一応、やっておくべきだろう。

そう思って、俺は切り出した。

「四月から…同じ隊に配属されれば良いんだがな」

「…そうですね」

とはいえ、隊は全部で10もあるのだ。同じ隊に配属される確率はそう高くない。

それが分かっているからか、ルシファーも少し顔を曇らせた。

「お前、一人で大丈夫か?」

「一人でって…。小さな子供じゃないんですよ?」

「気掛かりなんだよ」

ほんの数年前まで、こいつは物凄く危うかったからな。

あの姿を見ていれば、とても安心出来ない。

「お前は、俺よりずっと上に配属されるだろうしな…。隊長とか」

「新人がいきなり隊長になりますかねぇ?」

「実力主義なんだろ、帝国騎士団は。実力があればなれるさ」

事実、彼にはそれだけの才能がある。

帝国騎士団が本当に実力主義を貫くなら、ルシファーはすぐにでも隊長になれる。

もし、若いという理由だけでルシファーが隊長から外されるのなら…それだけの理由で掲げている実力主義を裏切るなら、帝国騎士団など怖くも何ともない。

「隊長なんて…俺に勤まるんですかね」

「何だ。自信がないのか?」

「これっぽっちも」

なんとも頼りない隊長候補だ。

基本的に、自分にあまり自信がないのだろう。

恐らく…帝国騎士官学校での、あの経験から。

「…ねぇ、ルキハさん」

「うん?」

「俺が隊長になっても、副隊長になっても…変わらずに仲良くしてくれますか?」

…そんな。

そんな悲しそうな顔で。

「…当たり前のことを聞くな。馬鹿」

「…そうですよね。ありがとう」

スパイという立場じゃなくたって、俺は家族や仲間を裏切るような真似はしない。

俺がマフィアだと知ったら、ルシファーは俺を軽蔑するだろうけど…。
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