The previous night of the world revolution
講演会は、第一部と第二部に分かれていた。

第一部は、ウィルヘルミナさんを始め、女性の人権問題の専門家による講演。

第二部は、実際に性的犯罪の被害を受けた女性の被害体験を、数人分。

第一部の方は良いとして、第二部の方は、精神的にかなりきついものがあった。

実際に被害を受けた女性の体験談を聞くのは、初めての経験だった。

俺は男だから、女性の経験をリアルに感じ取ることは出来ない。

ああいった性被害については、実際に被害を受けた人にしか分からない部分が大きい。

俺は男だから分かりません、ではないけれど。想像することだけは出来るけど。

…やっぱり、聞いていて楽しいものではなかった。

被害を受けたときの生々しい情景を思い出して、壇上で涙ぐみながら話す人もいて、どうにもいたたまれない気持ちにさせられた。

何の罪もないというのに、心を殺されるほどの傷を負った女性達を、俺はどんな目で見れば良いのか。

なんて、考えることさえ…偏見なのだろう。

悶々と、そんなことを考えていると。

「…そして今日は、男性ながら性被害者の会に関心があるとして、帝国騎士団の隊長さんが来てくれました」

…ん?

司会者さん、今何と?

「今日の講演を聞いて、何か思うことはありましたか?」

気がつくと司会者さんが目の前にいて、ずいっ、とマイクを向けてきた。

「…」

え。何その無茶ぶり?

感想喋らされるなんて聞いてないっすよ!って叫ばなかった自分を褒めたい。

これ、俺喋らなきゃいけない奴?

そりゃそうだよね。いや何も思うことないですなんて言ったら、袋叩きに遭いかねない。

だらだらと冷や汗流しながらも、俺は差し出されたマイクを受け取った。

司会者さんは、俺が何か良いことを言ってくれるだろうという期待の眼差しを向けていた。

ごくりと生唾を飲み込み、俺は思考をフル回転させてスピーチを考える。

「えー…あー…はい。ご紹介に預かりました帝国騎士団の隊長さんです…」

初っぱなからなんか間違ってる気がするが、気にするな。

上手いスピーチだと思わせるコツは、えーとかあのーとか、言葉に迷ってる素振りを見せないことだと、個人的には思っているので。

出来るだけ使わないスタイルで行こう。

「俺は…見ての通り男なので、皆さんの気持ちを…聞いただけで分かっていると言うのは、非常におこがましいことだと思ってるんですが」

思い出せ、俺。

こう見えて騎士官学校のスピーチの授業、評価Aだったんだ。

その実力を見せてやれ。

「可哀想とか気の毒なんて言うことも…俺には出来ないんですが…。正直、そういうことをする男がいるって事実に、同じ男として信じられないと言うか…」

…と言うか、何だよ。

やばい。何も考えずに喋ってるのがばれる。

「…ただ純粋に、何で皆さんが被害に遭わなきゃならなかったんだろうなって…。それが、悲しいです。皆さんがそんな辛い思いしてたときに、俺は何も知らずにへらへらしてたんだなって…」

…良いことを言おうと思ってたのに。

全く方向性が変わってる気がするが。

「でもそれを、知らなきゃ何も始まらない訳で…。俺が知ったところで皆さんの傷が癒える訳ではないけど、ただ、そんな被害に遭われた方が、今ここに、こんなにいるんだってことを…知れただけでも、何も知らなかった頃よりは、前に進めたんじゃないかって…そう思います」

結局…出てきたのは、そんなありきたりな、学生の作文みたいなスピーチだった。

でも、多分間違いなく、本心だった。

「皆さんの、今日の…苦しい気持ちを、加害者の男に、聞かせてやりたいです。こんな気持ちで毎日過ごしてる人がいるんだって、もっと多くの人に…知って欲しいと、思いました。俺も初めて聞いたので…。今日は、お辛いでしょうに…お話しくださって、ありがとうございました」

ぐだぐだと本音を語りそうになるのを、俺は強引に切り上げた。

マイクを返す手が震えていたのは、気づかれてない振りをしておいた。
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