The previous night of the world revolution
30分程度で出戻りした俺を、ルキハはぎょっとした顔で迎えてくれた。

「ルキハさん~っ!!」

「なん…何だその手?」

「うぅ…」

インクの染みがべったりとついた礼服を見て、ルキハは心底呆れたように、

「…お前、何をしたんだ?」

と、聞いた。

「…」

「…ルシファー?」

「…髪縛ったらワンチャン似合うかなと思って、輪ゴムに手を伸ばしたつもりがインク倒しちゃって…」

「…それで汚れたのか?」

「…」

こくり、と頷くと。

ルキハは一瞬、可哀想な子を見る目になって。

それから、堪えきれないと言うように笑い出した。

「何で笑うんですか」

人の不幸を笑うとか、倫理的にどうかと思うぞ。

「いや、笑うなと言う方が無理だろ…」

「人の不幸を笑うなんて!」

「自分の馬鹿さを棚に上げるな。俺は今、お前を心底馬鹿だなと思ってる」

思ってても言わないでもらえませんかねそういうことは。

心が痛い。

「とりあえず、脱げ。そこまで広範囲に被弾したらもう手遅れだと思うが、一応落としてみよう」

「ふえぇ…」

「全く、本当に馬鹿だなお前…」

半泣きでジャケットを脱いで渡すと、ルキハは漂白剤を使って、染み抜きに挑戦してくれた。

自分でやれよとの声が聞こえてくるが、生憎お坊っちゃま育ちの俺には、そんなスキルはない。

自分が情けない。

あれ?そもそもルキハは何でそんな技術あるの?

そんな疑問は沸いたが、それより今は。

「…寒い…」

上着を剥奪されたので、肌寒かった。

「クローゼット開けて良いから、好きなの着てろ」

染み抜きをしながら、ルキハがそう言ってくれた。

持つべき者は、心優しい友よ。

俺はルキハのクローゼットから、ルキハの予備の制服を借りて、それを羽織った。

デザインは俺のものと同じだけど、ルキハの制服は俺のものより一回り大きい。

…ルキハが大きいんじゃなくて、俺がチビなだけなんだけど。

ちょっとぶかぶかのそれを身に付け、半泣きでめそめそしながらルキハが染み抜きしてくれるのを待った。

しばらく格闘してくれたルキハだが。

「…やっぱり無理だった」

ある程度の染みは落ちたが、やはりあれだけべったりと汚れていたら、全部綺麗には落ちなかった。

まぁ、地が真っ白だから。

白いシャツに墨汁振りかけて、全部綺麗に落とすのは至難だ。

「済みません、ルキハさん…」

「別に良いけど…。これ、式典で着る用だろ?替えはあるのか?」

「…ありません」

礼服は基本的に、一着しか持っていない。

…あれ?俺もしかして今…大ピンチなのでは?

今更になって、俺はそのことに気がついて、愕然とした。
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