The previous night of the world revolution
今日の俺は、まともに仕事をする気がないらしい。

今度は二番隊の宿舎に向かい、目指す先は最上階の執務室。

「姉さーん。お邪魔しまーす」

「…邪魔して良いと誰が言った」

「お邪魔しまーす」

「…」

姉さんの執務室に入ると、姉さんはデスクに肘をついて、溜め息をついた。

その眉間には三重の皺。どうやらお疲れのようである。

「今暇です?」

「暇な訳があるか」

ですよね。いつも忙しそうだもん。

でも姉さんが暇になるのを待っていたら、軽く二年は待たされそうなので。

「ちょっとこれ見てくださいよ」

「…お前は人の話を聞かん天才だな」

褒められてしまった。

「まぁ良い。私もお前に話したいことがあったからな。茶を淹れさせるから少し待ってろ」

「はーい」

…ん?俺に話したいこと?

って何だろう?まさか説教…?

…意気込んで来たのは良いけども、帰った方が良いような気がしてきた。

けれど今更尻尾巻いて帰らせてくれる姉ではないので、大人しく待つ。

使用人が紅茶を淹れて持ってきてくれてから、改めて姉さんは、

「…それで?何の用だ?」

「…説教されるのかと気が気じゃないので、姉さんの用件から話してください」

「説教されるようなことをした自覚があるのか?」

全くありません。

でも姉さんって、昔から俺の悪いところを粗捜ししては説教するじゃないですか。

甘いもの食べ過ぎだ、とか。睡眠時間が長過ぎる、とか。

姉さんはもう一つ溜め息をついて、切り出した。

「…お前、隊長に就任してすぐの頃…過労で倒れたんだって?」

「…ふぉ?」

「誤魔化しても無駄だぞ。お前を担当した医師に直接聞いた」

…個人情報じゃないのか。それ。

何でぺらぺら喋っちゃってんの。

「余計なお節介かもしれないけど、弟さんを気遣ってあげてくださいと言われた」

「あぁ、成程…」

そういう意味で喋ったのね。本当に余計なお節介だ。

「何をやったらそうなるんだ、お前は」

「いやぁ…。その、慣れない仕事で手間取っちゃって」

「嘘をつくな。お前が無駄に要領が良いことも、飲み込みが早いことも知ってるんだぞ」

そりゃそうだ。姉さんだもの。

誤魔化そうとした俺が悪い。

「…で?何があった」

「…」

これはもう、観念するしかなさそうだ。

そもそも姉さん相手に嘘を突き通すなんて、無謀にも程がある。

「…ちょっと、副隊長さんといざこざがありまして」

「…」

「過剰に仕事を押し付けられたりとか…。でも今は解決してますから」

シャルロッテさんとのやり取りは、いつでも事務的で…。俺としては、ちょっと気まずい。

でも、もう仕事を過剰に押し付けられたりはしていない。

それを聞いて、姉さんは眉間の皺を四重に増やした。

あぁ、俺のせいで…。姉さんの皺がどんどん蓄積されていく…。
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