The previous night of the world revolution
姉さんは、当然女性である。

しかし同時に、このルティス帝国で二番目に強い人間でもある。

そんな人間にいきなり鉄拳制裁を食らわされたら、どうなるか。

…頭の上で、輪になってぴよぴよと踊るひよこが見えた。

「暴力反対!」

王家を守り国民を守る帝国騎士団の副団長が、いきなり拳骨をかますなんて、信じられない。

涙目で叫ぶが、姉さんはしかめっ面のまま、尊大に足を組んだ。

「お前が馬鹿なことを言い出すからだ。目を覚まさせてやったんだから感謝しろ」

人様をぶん殴っておいて、感謝しろ、だと?

許されざる残虐行為だ。オルタンス殿に言いつけてやる。

「良いじゃないですかたまには!ドレス着たって!」

「まだ目覚めてないのか?」

二撃目を繰り出そうとする姉さんに、俺は防御用にテーブルの上に置いてあった、ティーカップを持ってきたトレーを手にし、それを頭の上に乗せた。

「大体、何の話だ」

「来月の式典ですよ!」

「あぁ…ローゼリア女王陛下の即位記念式典か」

そうそう、それそれ。

「あれで姉さん、ドレス着て行きましょうよ。俺カタログもらったんで」

「何故お前がカタログを持ってる?」

「タキシード仕立ててもらったんですよ。そのおまけに」

「…何故タキシード?」

似合わない癖に、みたいな顔しないでください。

「制服着ていこうと思ったんですけど、鏡の前で試着会してたら、うっかりインク溢しちゃって」

「…」

「染み抜きでどうにかなるレベルじゃなかったので、仕立て直してもらったんですが…一ヶ月じゃ間に合いそうになくて。ひとまずすぐに仕立てられるタキシード作ってもらうことにしました」

「…」

「…えへっ」

ちゃんと可愛く言ったつもりだったのに、結果的に姉さんを怒らせるだけだったらしく。

拳骨の代わりに、姉さんはすっ、と俺に手を伸ばし。

左耳を掴んで、引きちぎる勢いで引っ張った。

「いたたたたたた!暴力!暴力反対!」

防御されてないところを狙うなんて、卑怯にも程がある!

「ルティス帝国広しと言えども、お前以上の馬鹿は存在しないと確信した」

「ほほう。それって結構凄くないですか?全てのルティス帝国民の頂点に立つって、何にせよ名誉な…」

「右も引きちぎられたいか?」

「あっ、ごめんなさい」

ずきずきする左耳を手で押さえる。俺がルティス帝国一の馬鹿なら、姉さんはルティス帝国一手を出すのが早い女性だろうなぁ、と。

思ったけど、言ったら右も引っ張られそうなので、やめておいた。
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