The previous night of the world revolution
一瞬。

俺は、それが誰なのか分からなかった。

そのくらい、恐ろしい変化を遂げていた。

「汚い!馬鹿!」

べしっ、と頭をはたかれても、全く痛みを感じなかった。

そんなことはどうでも良い。これは一体、どういうことなのか。

隣にいたルキハも、さすがに驚いた顔をしていた。

今俺の前にいるのは、姉さんだ。

確かに、姉さん。

けれどもその格好は一体、どうしたというのか。

これは何かの天変地異か。

姉さんが。

あの姉さんが。

…ドレスを着ているなんて。

…俺は今、夢を見ているのだろうか?

「…偽者?」

「…何で偽者だと思うんだ…」

もしかしたらこれは、姉さんの皮を被った偽者なのではないかと、俺は思ったのだが。

どうやら、本物らしい。

へぇ~…。

………………。

「…何でドレス着てんですかっ!?」

姉さんは、赤いドレスに身を包んでいた。

マーメイドラインの、深紅のドレス。

髪はアップにしてまとめ、お揃いの赤い髪飾りをつけている。

更にネックレスも赤。それに対比してブレスレットはゴールド。

まるで芸術作品のように、洗練された美しさがそこにあった。

「お前が着ろと言ったんだろうが」

「そ、そりゃ言いましたけど…」

着ないとか言ってませんでした?

あの場では拒否してたよね?え?気が変わったの?

「う、美し過ぎるっ…」

眩しくて見ていられないほどである。

元々綺麗な人だと思っていたが、飾ればこれほどになるとは。

「ね、ルキハさん。姉さんめちゃくちゃ綺麗ですね」

「あぁ。綺麗だな」

ルキハも素直に絶賛。だって、それくらい綺麗なんだもの。

「どうしたんですか?姉さん…。着ないって言ってたじゃないですか」

「そう言ったんだが、まぁ、たまにはな」

一体どういう風の吹き回し…いや心境の変化なのか、とにかく姉さんはドレスを着てみることにしたらしい。

なんてことだ…。俺の説得が通じるとは。

口から吹き飛んでしまったブルーベリーチーズケーキには未練が残るが、しかし余りあるほど美しいものを見た。

素晴らしい…。

…と、そこに。

「…あ?」

一人の男が、そこを通りかかった。
< 186 / 626 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop