The previous night of the world revolution
「…は?」

「あなたを告発なんてしません。誰がしますか。そんなことを」

内通者の存在を知っていながら、それを看過する。

帝国騎士としては、酷い裏切り行為だ。

ばれたら、俺だってただでは済まない。

でもそんなの、知ったことか。

全部知ったことか。

俺は帝国騎士である前に、一人の人間だ。

たった一人の、俺を殺せないほど優しい親友を、誰が売り飛ばすような真似が出来ようか。

無理に決まってる。

こればかりは、もう理性でどうにかなる問題ではなかった。

どうしたら良いのかなんて、分かってる。

でも、出来ないのだ。

無理。百万回考えたって無理。

「今ならフレイソナも、容疑者を絞り込みきれていない。俺が裏から手を回すので、あなたは逃げてください」

「…!?」

「ただでは帰れませんか?何なら、何か情報を持ち帰りますか。『連合会』って、その辺どうなってるんですか?」

帰ったものの、何正体ばらされてるんだ、と彼が責められるようなことになったらいけない。

手土産がないと帰れないなら、俺の権限で知れる限りの情報を彼に渡すつもりだった。

それでどれだけ騎士団が不利益を被ろうと、そんなことは知ったことじゃなかった。

「いや…別に、手ぶらでも普通に帰れるけど…」

「そうですか。結構優しいんですね、『連合会』って」

それなら良かった。

ルキハは目を白黒させて、理解出来ない、みたいな顔をしていた。

何でそんな顔をするんだか。

「お前…何で、俺を告発しない?」

「あぁ、そんなこと気にしてたんですか?」

わざわざ聞くまでもない。愚問という奴だ。

「あなたが、俺を撃てなかったように」

それは至極当たり前で、当然の答え。

「…俺にも、あなたを売ることは出来ない」

あなたが内通者なんだってことは、気づいていた。

でも、俺は一度として、彼を告発することは考えなかった。

脳裏を掠めすらしなかったのだ。

彼がスパイに向いていないのと同じように、俺も隊長なんて、本当は向いていないんだろう。
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