The previous night of the world revolution
久し振りにアシュトーリアさんに姿を見せると、彼女は感極まったように抱きついてきた。

まぁ…そうされるだろうとは思っていたけど。

「ルルシー。あぁ、ルルシー。元気だった?病気しなかった?私がどれだけあなたを心配していたか!」

「えぇ、はい…」

「大丈夫なの?身体、何処か悪いところはない?」

「至って元気ですが…」

肺が悪いとかいうことにされてるけど、全然何にも悪くないし。

まだほとんど事情を知らないアシュトーリアさんは、そもそも何故俺が戻ってこれたのかも分かっていないのだ。

だからまず、その辺から色々順を追って説明しようとしたのだけど。

「元気なのね?じゃあ、それなら今から一緒に食事にしましょう?」

「…え。今からですか?」

報告しなければならないことは、山ほどあると思うのだが。

先に食事?

「今からよ。あなたがいなくて、私がどれだけ寂しかったと思ってるの。元気なんでしょう?それなら何でも良いわ。食事にしましょう」

「…」

「ここ最近、あなたが心配でほとんど食事が喉を通らなかったの。今ルルシーの顔を見たら、安心して、お腹空いてきちゃった」

「…そうですか」

何て言うか、その…そうですか。

食欲が…あるのは良いことだな。

「折角だから皆で食べましょう。アイズ、アリューシャとシュノを呼んできてくれる?」

アシュトーリアさんは、俺の後ろに控えていたアイズにそう頼んだ。

さすがに今は優先順位があるでしょう…とアイズがやんわり諌めてくれるのではないか、と思ったが。

「そう言うだろうと思って、既に呼びました。『中華食べたいな~』って、アリューシャが」

「あら、そう?なら中華にしましょうか」

なんだ。その和やかな会話は。

俺、潜入任務から帰ってきたばかりなんだが?

「ほら、ルルシーも行きましょう?」

何かおかしいよなぁと思いつつも、嬉しそうなアシュトーリアさんの顔を見ていると。

どうにも、何も言えなくなってしまう。

心配していてくれたというのは、本当なのだろう。

下手をしてスパイをばらしかけてしまったことに対する懲罰も、万一にも有り得るかなと思っていたのだが…。

…どうやら、そんなことはなさそうである。

別に懲罰を受けたかった訳ではないが、何だか、その…帝国騎士団と比べると、なかなかに緩い。

それが『青薔薇連合会』の強みでもあるけれど…。

後ろを振り向くと、にやっ、と笑うアイズ。

逃げられないね、みたいな顔しよって。

仕方がないので、俺は報告を後回しに、アシュトーリアさんについていくことにした。
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