The previous night of the world revolution
その人が来るなり、ローゼリア女王は顔を綻ばせた。

「お久し振りです。ローゼリア様」

「えぇ、本当に。あなたは滅多に顔を見せてくれないから」

俺はその人が本当は何者なのか、まだ知らなかった。

ただ、表向きの立場なら知っていた。彼の顔なら見覚えがあった。

ベルガモット王家の親戚筋で、貴族の中でも特別高貴な家、クリュセイス家の当主。

ローゼリア女王にとっては、従兄弟に当たる人物だ。

名を、ゼフィランシア・エルディス・クリュセイス。

先程までのつまらなさそうな顔が一転、ローゼリア女王は彼に会って嬉しそうであった。

久々に年上の従兄弟に会うのが、楽しみであったらしい。

それもそうだろう。彼女には妹もいるけれど、妹との仲はそんなに良くないそうだから。

せめて従兄弟とは、友好的に接したいはず。

「本当に、よく来てくれたわね。前に会ったのはいつだったかしら」

「確か、式典のときですね。9年目の即位式典」

「あぁ、そうだったわね。もう9年にもなるのね…」

「えぇ。陛下の即位から特に大きないさかいもなく、無事に9年目を迎えられたのは…偏に陛下の手腕の賜物です」

「私だけじゃないわ。あなた達分家の方も随分助けてもらっているし…」

俺達騎士団の皆さんも随分頑張ってますよねー。と言いたかったけど言える達なじゃないので、心の中だけに留めておいた。

この高貴なお二人の前では、俺なんてそこらの置物も同然である。

「…正直なところ、予想外でした」

「?何が?」




…一瞬にして、空気が変わった。

俺はその変化に、すぐに気がついた。

気がついたときには遅かった。

どうせ何も起きないだろうと決めてかかっていたのが仇になった。

「…簒奪者のお前が」

ゼフィランシアは外套の内側から、黒いものが光った。

それが拳銃であると、俺が理解するのに一秒もかからなかった。
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