The previous night of the world revolution
彼の心の傷は、予想通り、かなり深いものだった。

立ち直るなんて夢のまた夢。それどころか病室から出ることすら難しかった。

夜は特に不安定になって、自傷の恐れがあるからと、睡眠薬を処方された上に拘束されていた。

治療は続けているが、良くなっているとはお世辞にも言えなかった。

だが、焦る必要はない。

彼の人生はまだ長い。死にさえしなければ人生はまだ続くのだ。

いつか立ち直ってくれれば良い。その日をずっと、俺は待っているのだから。

「ルシファー…だからルシ公か。やっぱりまだ落ち込んでるの?」

「そうだな」

病室に向かうエレベーターの中で、アリューシャが尋ねてきた。

「無理もないよ。彼、文字通りアイデンティティ崩壊させられたんだから。そう簡単に立ち直れるはずがない」

俺の代わりに、アイズがそう言った。

…今まで20年近くかけて築いてきたアイデンティティを、一日にして崩壊させられたら。

普通の人間なら、そりゃ狂いもするだろう。

まだ自殺を留まっているのは、俺が止めるからに過ぎない。俺がいなかったら、あいつはとっくに死んでいるだろう。

俺のやっていることは自己満足の偽善なのかもしれないな。ただ彼を失いたくないが為に、彼に地獄を味わわせている。

それでも俺は、死んで欲しくないのだ。生きていて欲しいのだ。

いつか、また立ち直って欲しい。

そんな思いを胸に、俺は病院の最上階にあるルシファーの病室の扉をノックした。

「ルシファー、入るぞ」

呼び掛けても、答えがないのは分かっていた。

だから、勝手に扉を開けて入った。

広い病室の中央に、ぽつんと置いてあるベッド。

その上に、彼は上半身を起こして座っていた。

相変わらず、その目は空虚だった。
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