The previous night of the world revolution
もう午後一時を過ぎているというのに、ルシファーは未だに昼食のトレイと睨めっこ状態であった。

いや、睨んでいるのは昼食の方だけで、ルシファーの方は目が泳いでるが。

「また食べてないのか。全く…あ、花持ってきたから。これ」

「…」

ルシファーは無言。まぁ、答えてくれる方が珍しいから、無視されても気にしない。

耳に入ってはいるのだから、それで良い。

入院してからというもの、彼がまともに食事を摂ることは皆無であった。

お陰で彼を生き永らえさせる為に、彼の腕には高カロリー輸液を投与する針が刺されている。

本人曰く、食欲がないのだとか。

おまけに厄介な考えを拗らせており、働かざる者食うべからずの原則に従い、自分は全く働いてないのに食事をするのは気が引けるらしく。

更に、ずっとベッドの上でだらだらしてるだけなのに、わざわざ食事を持ってきてもらって食べるなんて申し訳ない、と。

そんな理由で、彼は自分から食事をしようとしない。

あとは、単に食事をするだけの労力がない。

勿論俺はそれらの言い訳を一つずつ潰していった。お前は今まで散々帝国の為に働いてきたのだから、今は甘えても良いのだと。

お前が食べなかったら、この食事は廃棄されて無駄になるだけなのだから。むしろその輸液の方がコスト的には高いのだからと。

そしてベッドの上から動かなかったとしても、身体の中身は動いているのだからそれなりのエネルギーは必要なのだと。

あれこれ言って説得したが、やっぱり食べなかった。恐らく食べようとする意思はあるのだろうが、身体がそれに追い付かないのだ。

早い話が、やる気が出ない。

それをやろうと頭の中で考えていても、身体が従わない。身体を動かすだけの労力がない。

話すときもそんな感じで、喋るときは喋ってくれるのだが、彼の話は断片的で、言葉が途切れ途切れになってしまう。

それは言葉に詰まっている訳でも、俺と話したくない訳でもない。

頭の中では喋ることを組み立てて考えられているのだろうが、それを上手く声に出せないだけだ。

だから、俺は彼と話すときは、彼が何を言いたいのか、断片的な言葉を補完して考えなければならなかった。

勿論苦ではない。そんな作業、彼が喋ってくれるのなら容易いことだ。

「今日はな…。俺の仲間がついてきた。俺が誘った訳じゃないぞ。勝手に来たんだ、勝手に。邪魔だったら、出ていけって言ってくれても良いぞ」

「…」

アイズとアリューシャを指差して言うも、ルシファーは視線さえ動かさなかった。

あれだ。まだ俺がここに来たことを上手く認識出来ていないのだ。

彼の思考はいつだってゆっくりだ。恐らく今、少しずつ、なんか騒がしいなぁと思い始めている頃だろう。

「よーっすルシ公!自己紹介とかしたことあったっけ?アリューシャだぜ!よろ!」

今日はアリューシャが騒がしいから、不快かもしれないな。

ルシファーの機嫌が悪くなったら、こいつは即行で摘まみだそう。

「やぁ、久し振り。…それにしても味気なさそうな食事だねぇ。こんなんじゃ食欲も沸かないよ」

アイズは、食事のトレイをうんざりした顔で見つめた。

…まぁ、それは確かに一理あるな。

今日の昼食は、ほんのり塩味の五分粥と、申し訳程度にすりおろした野菜の入った、透き通ったスープ。と、ミニゼリーが一つのみ。

これは完全な病人食だな。いや、病人なんだけど。こいつ。

「こんなんじゃ食べる気しねぇよなぁ。もっとこう、チキンソテーとか。カツ丼とかなぁ。若いんだからガッツリ食べた方が良いよなぁ」

と、アリューシャ。それお前が食べたいものだろ。

ルシファーは普段まともに食事をしないせいで、そういう重いものは食べられないのだ。

仕方なく、こんな胃に優しいメニューになる。

…それにしても食欲沸かないメニューだ。

「お、名案を思い付いた!ルル公がご飯作ったら良いんじゃね!?ルル公のご飯美味いし!」

「はぁ?何で俺が」

「ルル公が作ったご飯だよって言われたら、ちっとは食欲出ねぇ?」

「…」

…それでルシファーの食欲が少しでも回復するなら、やぶさかではないが…。どうだろう。
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