The previous night of the world revolution
…病院から戻り。

「あら、ルルシー。どうしたの?趣味の良いブローチをつけて」

「アシュトーリアさん。こんにちは」

『青薔薇連合会』本拠地の高層ビル。その廊下を、アシュトーリアさんは平然と歩いていた。

マフィアという職業柄、敵は多い。暗殺を目論む者はゴロゴロいるのだから、この人にはあまりふらふらして欲しくないのだが。

言っても聞きやしない。

俺は小言を言いそうになるのを抑えて、そっと一礼した。

「そのブローチどうしたの?」

「先程、ルシファーからもらいました」

「ルシファーと言うと…あなたのお友達だったわね」

「そうです」

ルシファーは『連合会』の人間ではないが、俺にとっては親友なので、アシュトーリアさんも時折気にかけてくれるのだ。

「あの子にもらったの?」

「はい。まだ元気だった頃にアシスファルトに行って、お土産として買ってきてくれたそうで」

「へぇ。綺麗ねぇ。品が良いわ」

女物だということはやっぱり気にしないんだな。

まぁ、青だから。これが情熱の赤だったらさすがに身に付けるのは躊躇するのだが。

ルシファーは基本的に育ちが良いから、俺なんかよりずっと品はあるのだ。

生まれながらの気品というものが。

今となっては…本人にとっては滑稽なだけなのだろうけど。

「それで、そのルシファーさんは大丈夫なの?もう半年になるかしら」

「…なかなか良くなりませんね」

「そう…。無理もないわ」

アシュトーリアさんは、ルシファーに何が起きたのか知っている。

彼女は事情を聞いて顔をしかめたものだ。『青薔薇連合会』なら、そんなことは絶対にしない。

仲間を売って保身を選ぶなんて行為は、彼女が最も嫌うものだ。

『連合会』は敵には容赦しないが、味方は大切にするから。

「考えたくはないけど…もしかしたら、ずっとこのまま病院から離れなれなかったら…」

「…あいつは、きっと大丈夫です」

アシュトーリアさんの言葉を遮るように、俺はそう言った。

もしかしたら、俺がそう信じたいだけなのかもしれない。

それでも。

「いつかきっと、また立ち直ります。あんなに芯の強い人間を、俺は他に知りませんから」

「ルルシー…」

「…俺は、諦めません」

彼は今、傷ついているだけだ。

傷はいつか癒える。傷痕は残るかもしれない。でもいつか、傷は塞がる。

そうしたらまた、歩き出せるはずだ。そんな強さを、あいつは持っている。

何年かかっても良い。

俺はいつまでも、その日を待ち続ける。





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