The previous night of the world revolution
病室で一人過ごしていると、考えることはいくらでもある。

この部屋にはテレビはなかった。

テレビを点けたら、女王のことやら帝国騎士団のことやら、俺のトラウマを刺激するような話題が、どうしても耳に入ってしまう。

俺自身、それを聞いて正気でいられる自信がなかったから、テレビは観たくなかった。

どうしてもテレビが観たいなら、病院の待合室に行けば、そこにテレビが置いてある。

他の患者も利用するから、チャンネルを好きには触れないけれど。

いずれにしても、ベッドから動く気力がない俺には縁のない話だった。

テレビが駄目ならと、ルルシーはよく本を持ってきてくれた。

気持ちは嬉しいし、出来れば俺も本を読みたいのだけど。

読み始めても集中力が続かなくて、いつも数ページしか読めない。

折角持ってきてくれたのにベッドサイドに積み上げてしまっているのを見ても、ルルシーは嫌な顔一つしなかった。

ゆっくり読めば良い、と言っただけだった。

また、ルルシーの同僚のアリューシャ、という人も時折、ルルシーにくっついて見舞いに来てくれた。

彼はルルシーが言うように、騒がしい人である。

でも、普段病院内で騒がしい人がいない為、あれだけぽんぽん喋ってくれる人はなかなか新鮮で、刺激的だった。

アリューシャは俺に、毎日暇だろう、と言った。

最近の俺は、もう時間の流れを上手く掴めていないので、そんなに退屈で仕方ないということもないのだが。

俺が退屈で堪らないと思っているらしく、暇潰しにと音楽プレーヤーを持ってきてくれた。

「巷ではこれが流行ってんだぜ!」とか言って、『ポテサラーズ』というボーカルユニットの歌をエンドレスで聴かされた。

ルルシーはこめかみに血管浮き立たせてアリューシャを閉め出そうとしていたが、音楽を聴くというのは、なかなか刺激的で、気分転換になった。

更にルルシーの同僚、アイズレンシア…アイズと呼ばれている人も、俺が暇を持て余していると思っているらしく。

色んな映画やアニメなどの動画を観る為のタブレットをくれた。

残念ながら俺は、映画やアニメを最後まで観るだけの気力はないのだが。

画面を眺めているだけで、現実から逃避出来て、嫌なことを思い出さずに済んだ。

そういえば俺は昔から、勉強や剣術ばかりで、こういう娯楽とは無縁だった。

世間では何が流行しているのか、同年代の帝国民がどんなことをしているのか、何も知らなかった。

何もかも知っている気で、何も知らなかったのだ。

小さな病室に閉じ込められているのに、こんなところで視野が広がるなんて…なんという皮肉だろう。
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