The previous night of the world revolution
ちなみに。

ルティス帝国の一般的な法に則れば、彼らの罪はそれほど重くはない。

精々十数年ほど、牢屋の中で過ごせば良いだけだ。

これは所謂ホワイトカラー犯罪であり、別に誰かを殺した訳でもない。

女王暗殺未遂なんて大罪に比べたら、可愛いものだ。

だから、俺がもし帝国騎士だったなら。

すぐにでも彼らを庇っただろう。拷問なんて非人道的な取り調べを行うことに対しても異を唱えただろうし、身体を縛り付けて自由を奪うことにも反対しただろう。

正義に則って、法を守っただろう。

けれども今や、俺は帝国騎士でも何でもない。

今は、ここのルールこそが正義であり、そして法だ。

守るべき全てに裏切られた俺が、どうして今更人を殺すことに躊躇いなど持つことだろう。

「不良ごっこしてるガキじゃないんですから、そのくらい覚悟してますよ」

「…そう。なら良いわ」

そこまで俺の胆が据わっているとは思っていなかったのか、シュノさんは少し驚いた様子だった。

そのとき。

「うわぁぁぁ!」

彼女が鉄槌を下すその直前、一人の男が、叫びながら拷問室から逃げようとした。

逃げようとしたって扉は固く閉ざされているし、彼らは手を縛られているのだから、どうすることも出来なかっただろうが。

人間、追い詰められると予想もしない行動を起こすものだ。

「待て!」

シュノさんが振り向いてそれを制止する前に、俺は拳銃を抜いていた。

ぱぁん、と乾いた音がして、男が床に転がった。

「…残念でした」

逃げようとして、逃げられる相手ではない。

マフィアなんかと関わったのが、彼らの運の尽きだ。

殺してはいない。足だけを正確に撃ち抜いた。

足に風穴開けられた男は、苦悶の表情で床に這いつくばっていた。

一撃で殺すことは出来た。でも、そうはさせない。

だって。

「…楽に殺さないって、言ったでしょう?」

せめて生まれてきたことを後悔するくらいには、苦しんでから死んでもらわなければ。

余裕の表情で、床で悶える男を見下ろしている俺に。

シュノさんは、冷たく言い放った。

「…その男はあなたがやって。任せるわ」

「分かりました」

笑顔で答えてから、俺は床に芋虫みたいに転がっている男の頭を、思いっきり踏みつけた。





「…さて、初仕事と行こうか」




この手を、血で汚す瞬間である。




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