The previous night of the world revolution
…その日の晩、俺は一人で祝杯をあげた。

「♪♪♪~」

鼻唄なんて歌いながら。よく知りもしない癖に買ってきたワインを開けた。

俺は昔から、酒はあんまり好きじゃないのだ。

飲み始めても、すぐに酔うし。

何より、ワインなんて苦くて癖があって、一口飲んだだけでギブアップだった。

飲んだら泣き上戸になるらしいしな。

そうだった、はずなのに。

その日の俺は、まるであの頃とは別人だった。

何せ、俺は生まれ変わったのだから!

名実共に、これで俺はマフィアの人間だ。

不当に人を殺す、それも拷問して苦しめて殺すなんて、帝国騎士のやることではない。

しかも俺は、そのことに対してまるで罪悪感を抱いていなかった。

ほんの少しだって躊躇わなかった。手が震えることもなかった。

殺人という罪の重圧を、ちっとも感じてはいなかったのだ。

手に残っている、とどめを刺すときの生々しい感触すら、誇らしく思えてくる。

とうとう俺は、もう戻れないところまでやり遂げたのだ。今捕まったら、俺はもう貴族ではないから、一般帝国民と同じように処罰される。

人を殺した。それも、残酷の限りを尽くして殺した。

ぐっちゃぐちゃの死体を踏みにじって捨てた。一体これはどれほどの罪だろう?死刑だろうか?無期懲役だろうか?

俺がこんなことをしたと聞いて、帝国騎士時代の俺を知っている人はどう思うだろう?姉は?オルタンスは?

考えるだけで胸が高鳴ってくる。取り返しのつかないことをしたという事実に、心から満足していた。

俺がこうやって黒に染まることは、忌々しい帝国騎士団への復讐に繋がる。

あぁ、わくわくする。

「ん~。美味しい」

あんなの何が美味しいのか全く分からないと思っていたワインが、今はとても美味しく感じる。

人間というのは不思議な生き物だ。たった二年で、ここまで変わるとは。

まるで別人じゃないか。

実際俺はもう別人だ。正義を貫き、悪を滅ぼす俺は、死んだ。自分で自分の手首を掻き切って死んだ。

…まさかここまで、美しく生まれ変われるとは。

「…絶望の未来に、乾杯」

今夜飲んだワインの味を、俺は一生忘れないだろう。





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