The previous night of the world revolution
我ながら、悪どい騙し方をしていることだ。

こんなだから、ルルシーに魔性の男だと言われるのだ。

まぁ、今の俺にとっては褒め言葉でしかないのだが。

「…なんて強がってみても、正直…ちょっと辛かったりするんですけどね」

さて、ここから情に訴えていこう。

「さすがに、きつかったです。今までずっと、帝国騎士になる為に…生きてきた訳ですから」

「…」

きつかった、どころの騒ぎではない。

精神を病んで自殺しかけて、おまけに精神病院で四肢を拘束までされた。

今だって、再発を防ぐ為に薬を飲み続けている毎日だ。

でも、そこまで生々しい話をする必要はない。やり過ぎれば事を仕損じる。世の鉄則だ。

「家族とも音信不通で。一人ぼっちで、マフィアで生きていくってのは…多分リーフリルさんが想像するより、辛いですよ」

リーフリルさんは、唇を噛み締めながら話を聞いていた。

良い感じに情が移ってるらしい。

「そう…辛い。正直、物凄く辛くなるときはあります。我慢しなきゃいけないって、仕方ないって分かってるけど、でも、どうしても…」

そこで俺は、大袈裟に涙を溢して見せた。

言わずもがなだが、嘘泣きである。

俺ほどの魔性の男になると、蛇口を捻るように涙が出るもので。

女を落とす際の、特技の一つでもある。

「あれ…。何で俺、人前で…。泣くなんて、みっともないことを…」

自分で蛇口を捻っておきながら、何を白々しいことを言っているのか。

瞼を擦って涙を止める振りをしながら、それでも涙を止められないという風に嘘泣きを続けると。

見事に引っ掛かったリーフリルさんは、感極まったように言った。

「…みっともなくなんて、ないです」

「…」

「ルシファー様がそんな辛い思いをしていたとも知らず、私は…」

いや、当時あなたが知っていたとしても、何も出来なかったから。

そんな正論が頭に浮かんだが、勿論口には出さない。

「泣かないでください。ルシファー様。泣かないで…」

子供のように泣きじゃくる俺を、リーフリルさんはそっと抱き締めてきた。

そして子供にするように、あやすように背中を撫でた。

全く女性という者は、どうしてこう人の涙に弱いのか。

ましてや男の涙など、怪しいことこの上ないというのに。

予想以上の効果である。

俺は顔で泣きながら、心の中ではほくそ笑んでいた。
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