The previous night of the world revolution
拷問室の中央では、鎖に繋がれた女性が項垂れるように天井から吊り下げられていた。

その身体は傷だらけで、何枚か爪も剥がされていた。

うん。やっぱりなかなかタフだな。

大抵の人間なら、ここまでされると泣きながらぺらぺら喋ってくれるのだが。

「やっぱり女性がいたぶられてるのを見ると心が痛みますね。ねぇルルシー?」

「お前が言うな、お前が」

「ひどーい。俺ほど紳士的なマフィアは、ルティス帝国広しと言えどもそうそういませんよ?」

「良いから、さっさと用件を済ませよう」

そうでしたね。

俺としても、今夜は残業はしたくないのだ。ルルシーのシチューが待ってるから。

「こんにちは、お嬢さん」

鎖に繋がれた女に、俺は優しく話しかけた。

俺はさっきこの人に暗殺されかけたというのに、こんなに優しく話しかけるなんて。やっぱり俺は紳士だ。

「お望み通り幹部が来てあげましたよ?さぁ、話してください」

暗殺者は憎々しげに顔を上げ、俺の目を睨み付けた。

「…それとも、もうちょっと『素直になって』みます?」

女性に暴力を働くのは趣味ではないが、それが仕事なら容赦はしない。

まだだんまりを続けるつもりなら、喋りたくなるようにするだけだ。

「…お前達が、主様を」

「ん?」

どうやら殴るまでもなく喋りたくなったようだが、主様だと?

「お前達のせいで、私の主様が…」

「…」

あぁ、何となく…ちょっと分かった。

ほら。やっぱり俺が過去にヤり捨てた女ではなかった。

この人は俺ではなく、『連合会』の幹部に恨みを抱いている。

つまり、殺すのは俺でもルルシーでも良かったのだ。

そして主という言葉。恐らく…『連合会』に潰された人間に、仕えていた者だろう。

大方、主の敵討ちに来たのだろうが…。見事に返り討ちに遭ったと。そんなところか。

もう大体分かったけど、一応最後まで聞いてあげよう。

紳士だからな、俺は。

「あなたの主って誰ですか?」

「ティターニア家の…」

ティターニア。

ティターニア家と言えば、あの忌々しいローゼリア女王の親戚筋の貴族じゃないか。

クリュセイス家とはまた別の。

確か当主は…以前式典で見たことがあるが、下卑たおっさんだったよな。

こいつ、あのおっさんの従者か?

「ルルシー、『連合会』はティターニア家と過去に何かあったんですか?」

少なくとも俺が『連合会』に在籍している間に、ティターニア家と何かいざこざが起きたとは聞いていない。

ということは、俺が入るより前に何かあったのだ。

「あぁ、確か…。お前がまだ入院していた頃、ティターニア家の主と一時期揉めていたことがある」

「何の話で?」

「金だ、金。ティターニア家の当主は資産運用に失敗して、『連合会』から多額の資金を騙し取ろうとした。で、その件の蹴りをつけたのが幹部のアイズだった」

馬鹿なことをしたものだ。

マフィア相手に、金を騙し取ろうなどと。

そしてその愚かな罪の制裁は、死であったと。

「そんなの逆恨みも甚だしい。あなたのところの当主が馬鹿だからそうなったんでしょ。自業自得だ」

むしろ俺達、被害者じゃないか。何でこっちが恨まれなきゃならないのか。

「違うっ…。あんな男の為じゃない」

「はい?」

「あの事件のせいで…。マフィアが事を大きくしたが為に…主様が」

「…あなたの主ってのは、誰ですか」

ティターニアの当主ではないのか。

「私の…私の主様は、当主のご子息である、フランベルジュ様だ」

その名前を言われて、俺は思い出した。

そういや、ティターニアの当主には、息子がいたな。

フランベルジュ・アンフィトルテ・ティターニア。

会ったことは一度もないが、どうにも俺にはその名前が、心の中に引っ掛かった。
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