The previous night of the world revolution
『厭世の孤塔』は、確かにルティス帝国有数の非合法組織である。

それは確かだ。

けれど…決して、『青薔薇連合会』ほどではない。

いかに精鋭揃いといえども、組織の規模が違い過ぎる。『厭世の孤塔』と『青薔薇連合会』が正面衝突すれば、彼らに勝ち目はない。

彼らだって、俺達に喧嘩を売ったところで、結局のところ返り討ちに遭って、組織ごと潰されることになるのは分かっているはずだ。

…平時であれば。

馬鹿ではないのだから、奴らもマフィアなら、喧嘩を売る相手くらいは選ぶ。

それなのに、『孤塔』は今、俺達に喧嘩を売ってきている。

これは一体、どういうことなのか。

考えずとも分かる。彼らには、何か…強力な後ろ楯が出来たのだ。

他の非合法組織か…あるいは。

「『厭世の孤塔』があれだけ図に乗るんだから、相当なバックアップを得てるんでしょう。となると考えられるのはやはり、帝国騎士団ですね」

帝国騎士団はあくまで『表』の組織であるから、大っぴらに非合法組織に援助したりなどしない。

だが、その裏では…それなりのことをやっている。

非合法組織とは国にとっての必要悪であり、増え過ぎると困るけど、減り過ぎてもまた困るのだ。

だから適切な均衡を取る。その為には、必要なときには非合法組織にも援助をする。

『青薔薇連合会』はルティス帝国最大のマフィアであり、その勢力はゆっくりとだが、日に日に拡大している。

全てアシュトーリアさんの采配である。

そして…自慢するつもりはないが、俺が組織に加わったことも大きい。

良くも悪くも、俺はルティス帝国のことをよく知っている。経済の仕組みも、社会情勢も。

それを活用し、『青薔薇連合会』の勢力はより大きさを増していった。

日進月歩で勢力を増す『青薔薇連合会』に危機感を抱いて、帝国騎士団が俺達を抑制する為に『厭世の孤塔』をけしかけた可能性は、充分にある。

しかし、確証は持てなかった。

帝国騎士団の目的は、俺達を破滅させることではない。そんなことをすればルティス帝国の経済は壊滅的被害を受ける。

それは分かっている。だから帝国騎士団はあくまで、俺達を牽制するのが狙いなのだろう。

その為に、『厭世の孤塔』をけしかけている。

そう仮定したとして、『厭世の孤塔』は何故帝国騎士団に協力する?

帝国騎士団から、多額の金を渡されたから?

でも、それに見合うリスクだろうか?『青薔薇連合会』の敵になるということは、彼らにとって死を覚悟しなければならないようなことのはずだ。

金で命は買えないと言うが、あれは本当だ。

いくら金をもらったからって、それで『青薔薇連合会』に潰されたんじゃ本末転倒だろう。

それなら、何故『厭世の孤塔』は帝国騎士団に協力するんだ?

そもそも本当に、後ろ楯は帝国騎士団なのか?

それすら確証は得られなかった。リーフリルにも当たってみたが、分隊長クラスには開示されていない情報のようで、彼女は何も知らなかった。

役立たずめ。

「…」

芳しくない情報が飛び交う中、アシュトーリアさんは酷く不機嫌そうに、顔をしかめていた。

結局その日の会議では、更に警戒を強めることとする、という結論に至り、根本的解決は様子見とされた。




しかし、その晩。

全てが、覆されることとなる。


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