The previous night of the world revolution
…はぁ、クリュセイス。

クリュセイスって言ったら、聞き覚えがあるなぁ。

それって確か、ローゼリア女王の親戚筋で。

ゼフィランシアとかいう、女王暗殺未遂事件の犯人が。

「…」

深々と。

俺は、ナイフをデスクに突き刺していた。

おっと、しまった…。落ち着けって今、ルルシーに言われたばかりなのに。

つい、腹が立ってしまって。

「…そうですか。クリュセイスの人間に誘われましたか」

「自分達が『青薔薇連合会』を抑えるから、少しちょっかいをかけてくれるだけで良いと…。見返りに、『連合会』を潰した暁には、我々がその権益をそっくり引き継がせるから、と…。それなのに彼らは、いきなり連絡が取れなくなって…」

その口車に乗ったと。

成程。クリュセイス家に誘われたのなら、それは納得だなぁ。

クリュセイスと言っても、ゼフィランシアだけじゃないだろうから?ゼフィランシアの家族が何人もいる訳だから?誘ったのが誰か、ゼフィランシアなのかどうかは分からない。

「クリュセイス家の誰?」

「当主の、妹だと…」

「はー…。そうですか」

ゼフィランシアには確か、妹がいたっけな。

後で調べておこう。

とりあえず、これで俺達が一番知りたかったことは分かった。

その上で。

「…で、あなた誰です?」

「…」

「ずっと気になってたんですよ」

エーデルガルト…を、騙った男は、震えながら答えた。

「だ、誰って…」

「エーデルガルトじゃないでしょう?部下に影武者をさせて、本人は何処に消えたんです」

「…」

その顔は、図星を突かれた顔だな。

まぁ、顔面バキバキだけど。

この男がエーデルガルト本人ではないことは最初から分かっていた。あの『厭世の孤塔』の首領が、こんなへっぴり腰の小僧であるはずがない。

貫禄も威厳もない。ただ首領から影武者を頼まれてびくびくしてるだけの下っ端だ。

殺されると踏んで、部下に情報だけ与えて自分は逃げたのだろう。

「…認めませんか?」

「…ボスは、あなた方との交渉を望んでいる」

どうやらバレたことは認めるらしい。エーデルガルトの影武者は、途端にしおらしくなった。

負け犬にはそっちの方がお似合いだな。

「今話した情報は全て真実です。その上であなた方との和解を乞いたい。我々はクリュセイス家に協力していただけで…」

「だから許せと?こちらも部下が何人も殺されてるんですけどね」

「…それは…」

「…ふん。まぁ良い」

自分から攻撃仕掛けておいて、後ろ楯が危うくなって負けそうになったら、途端に許しを求めるなんて、なんとも虫の良い話だ。
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