The previous night of the world revolution
「それで?『厭世の孤塔』をけしかけたのは帝国騎士団だと聞いたのだけど。それは認めるのね?」

アシュトーリアさんは、女王然とした高圧的な口調で尋ねた。

「はい。厳密には我々ではなく…クリュセイス家の者ですが」

「ゼフィランシア・クリュセイス卿の妹さんだったかしら」

「そうです」

そこまでは、正直に認めると。

ルレイアのときのように、全く関係ない第三者に罪を擦り付けるつもりはないらしいな。

「その妹さんは、私の仲間達の仇ということになるのだけど…。彼女は今どうしているのかしら。どう処分を下したのか聞かせてもらいたいわね」

「ミルーダ様については、しばらく謹慎という形で地方にあるクリュセイス家の別宅に移って頂いています」

「へぇ?」

ミルーダ様、というのが件の、クリュセイス家のご令嬢であるらしい。

俺達の仇だ。

「謹慎、ねぇ。貴族というのは罪を犯したら、家の名前を剥奪されるのではなかったかしら?」

ルレイアがそうであったように、とは言わなかったが。

アシュトーリアさんも思っていることだろう。

「ミルーダ様はクリュセイス家から追放されてはいません」

「それはまた、何故?私達に喧嘩を売ることは、たかが謹慎ごときで償える罪なのかしら」

アシュトーリアさんは眼光を鋭く光らせた。

もし、俺達をそこまでコケにするつもりなら、こちらは黙ってはいない。

オルタンスだって、そんなことは分かっているはずだが…。

「ミルーダ様は、確かに今回の件の切っ掛けを作りはしましたが…。本人に聴取した結果、あくまで彼女は、『孤塔』をけしかけて『連合会』をどうにか出来るのではないかと、可能性があるということを彼女自身の従者に話しただけです。それを聞いて、独断で実行したのは彼女の従者です」

「…」

淡々と話すオルタンスの言葉が、俺には信じられなかった。

…この男。今度は。

「その従者に話を聞いたところ、功績をあげてミルーダ様に評価して欲しくて、独断でミルーダ様の名前を借りて犯行に及んだと自供しました。従者については既に相応の処罰を…」

今度は、その従者とやらに罪を擦り付ける訳か。

あくまでクリュセイス家の人間は庇う、と。

「…ねぇ、あなた」

アシュトーリアさんは、白い目でオルタンスの言葉を遮った。

「そんな言い訳が通用すると思ってるの?」

「言い訳、という言葉の意味が分かりません。我々は真実を述べているだけです」

「…」

あくまで、悪いのはその従者。

ミルーダ様は、冗談混じりに「『孤塔』をけしかければ『連合会』を潰せるんじゃないか」と従者に話しただけ。

馬鹿な従者はその言葉を真に受け、実行して成功すれば出世出来ると目論んで、ミルーダ様の名前を借りて犯行に及んだだけ。

だから悪いのは従者。ミルーダ様じゃない。

でも切っ掛けを作ったのはミルーダ様に変わりないから、彼女は別宅で優雅に謹慎。同時にいさかいの渦中からも逃れて、ほとぼりが冷めたら呼び戻す。

罪を被せられた従者は、今どうしていることやら。

今度はそれが、オルタンスの描いたシナリオであるらしい。

他の隊長達は、皆苦々しい表情であった。

オルタンスの言っていることは虚言であると分かっていながらも、クリュセイス家のご令嬢を守るには仕方ない。そう納得しているらしいな。

今回は他の隊長達にも、真実を話しているらしい。

まぁ、女王暗殺未遂なんて大事件とは次元が違うからな。

…何処までも、姑息な連中である。
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