The previous night of the world revolution
「クリュセイス家の馬鹿女はどうなったって?責め殺しました?」

「…しばらく郊外で謹慎だってさ」

「…はぁ?」

「で、実質罰せられたのはそのご令嬢の従者なんだそうだ」

気が進まないとは思いながらも、先程のオルタンスの嘘を、かいつまんでルレイアに教える。

するとルレイアはしばしきょとんとして、それからわざとらしく窓の外を見た。

「あれぇ…。俺さっきまで今は昼だと思ってたんですけど。寝言ですか?お昼寝してるんですか?そろそろ起きてくれません?」

ルレイアの嫌味が炸裂である。

だが、オルタンスは相手にしない。

彼もルレイアが『青薔薇連合会』にいることに驚いたに違いないだろうが…。

俺は恐る恐る、ルシェの顔をちらりと見た。

恐らく、彼女が一番動揺しているだろうから。

しかしルシェは、数年ぶりの弟との再会にも関わらず、能面のような表情をしていた。

平静を装ってはいるけれど、心の中では嵐が吹き荒れているのだろうな。

変わり果てた弟の姿を見て、彼女は今何を思っているのだろうか。

だがその瞳には、確かに憎しみが表れていた。

…今この場で、ルレイアが冤罪であったことを告げたらどうなるのか。

そんなことはルレイアが望まないから、俺の口からは決して言わないが…。

「そこまでしてクリュセイスの馬鹿女を庇いたい訳ですか。見上げた忠誠心ですね。言っときますけどあの女、ちっとも恩なんか感じちゃいませんよ。何せ糞の家系ですからね、あれらは」

ルレイアの口の悪さはいつもの比ではないな。

クリュセイス家に並々ならぬ恨みがあるのは分かっているが…。

「後ろから撃たれなきゃ良いですね。もしそうなった暁には、指差して笑ってあげますよ。ねぇ?税金食らいの無能共」

「…いい加減にしろ、裏切り者」

ルレイアの罵倒に耐えられなくなったのか、アストラエアが凍えそうなほど低い声でたしなめた。

まぁ彼にしてみれば、裏切り者の若造に馬鹿にされるなんて耐えきれないことだろう。

怒らせてどうするんだよ、ルレイア…。

並の人間なら震え上がってしまうようなアストラエアの眼光を向けられても、ルレイアは涼しい顔。

「あはは。あっさりと若造に隊長の座を奪われたけど、その若造が辞めたお陰で何とかもとの役職に戻れた惨めなおっさんが何か言ってる。無能がいくらほざいても所詮無能ですからね。弱い犬ほどよく吠えるって、あれは本当…」

「貴様!」

痛いところを突かれたらしいアストラエアは、激昂して立ち上がりかけた。

ルレイアもまんざらではない様子で、やるならかかってこい、みたいな挑戦的な顔。

しかし、それを制したのはオルタンスだった。

「やめろ。彼らと争ったところで何にもならない」

「…」

オルタンスの制止を受け、アストラエアはようやく冷静になったのか、唇を噛み締めて座り直した。

「わざと煽ってるだけだ。いちいち相手にすんじゃねぇよ」

アドルファスも呆れたように同僚に言った。

更に。

「ルレイア」

「はいはい、ごめんなさい」

ルレイアの方もアシュトーリアさんに軽く諌められて、肩をすくめてぺろっと舌を出した。

…ちょっとやり過ぎちゃった、みたいな顔をするな。

ちょっとどころじゃないんだよ、お前は。
< 441 / 626 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop