The previous night of the world revolution

呼ばれるままに、アリューシャとアイズを伴ってシュノさん宅に向かう。

俺は一応覚悟して入ったのだが、幸いなことに、入った瞬間毒ガスじみた異臭に襲われるということはなかった。

ルルシーがついてるんだから大丈夫だと分かっているのだが…。人間、死にかけるとさすがに疑心暗鬼にもなる。

「お邪魔しまーす…」

「あっ、ルレイア…」

シュノさんは、昨日の今日だからか、まだ申し訳なさそうに俺から視線を逸らした。

いや、別にシュノさんに恨みはないから…。そこまで恐れる必要はないのだが…。

「よーシュー公～。今日はアリューシャ達も来たぜ～」

「今日は何作ったの？」

「…ポテトサラダ…」

リベンジマッチということだ。今日は死にかけることはないと信じたいが。

お休み中のルーさんに挨拶だけして、ダイニングに向かう。

テーブルの上には、美味しそうな料理が並んでいた。

鯖味噌入り野菜炒め、サンマの蒲焼き、塩豚のポトフ、等々。

…おぉ、なんか壮観。

昨日化学兵器が乗っていたテーブルとは思えない。

「これ…作ったの、ほぼルルシーですよね？」

「あぁ。シュノが作ったのはポテトサラダで…。あとは俺のだ。材料が余りまくってな…」

…え？材料が余りまくった？

ということはもしや…これは元々、ポテトサラダの材料のつもりだった？

思わず身震いした。料理には疎いが、ポテトサラダに鯖味噌や塩豚が入っていたら、それは一体どんな味なのか。

ルルシーが止めてくれたんだな。ありがとう。

「デザートにかき氷もあるからな」

「…もしかしてそれも、元はポテトサラダの材料？」

「…」

無言で視線を逸らすルルシー。そうなのか。やはりそうだったのか。

昨日の暗黒ポテトサラダがどういう経緯で作られたのか、少し分かった気がする。

「おぉ、これがシュー公の作ったポテサラか～」

アリューシャは興味津々の顔で、テーブルの中央に鎮座するポテトサラダのお皿を見つめた。

「ふひひ。材料の大きさバラバラだけど、ちゃんとポテサラじゃん」

「見た目、普通のポテトサラダに見えるけど…。昨日のはそんなに酷かったの？」

昨日の暗黒ポテサラを見ていないアイズは、本当にシュノさんが化学兵器並みのポテサラを作ったのか訝しんでいるようだった。

昨日のを見たら…腰抜かすどころか、あの臭いだけで気絶してただろうなぁ。

「忘れましょう。俺も忘れてますから」

昨日のことはもう過去のこと。忘れて、今の美味しそうなポテサラを楽しもう。

そんな訳で全員テーブルについて、俺はまず真っ先にポテトサラダを口にした。

アリューシャの言う通り、材料の切り方はまだバラバラで、大きかったり小さかったりもするけれど。

昨日と違って異臭もなければ毒ガスのような煙も出ていない。

素晴らしい。ちゃんと食べ物だ。文化的な食べ物だ。

それなら、何を恐れることがあるだろう。

昨日の恐怖を身体が覚えているのか、謎に手が震えているが気にするな。

もく、と口に入れる。それを、シュノさんは不安げな顔で見つめていた。

「…どう、かな？」

「…」

…なんてことだ。

人間というのは成長する生き物なのだと、俺は心から感動した。