The previous night of the world revolution
医務室のベッドに寝かされるや、ルキハは医務室の職員に聞こえるように言った。

「糞の集まりだな、帝国騎士官学校ってのは。こんなんでまともな騎士が育つのか?」

「…育つんでしょうね…」

少なくとも、姉は騎士官学校出だし。

女子部の方だけど。

「大丈夫か?傷は」

「…慣れてますから」

今日のは確かに、かなり酷かったけど。

今日より酷い殴られ方をする日はたくさんあった。

「嫌なことに慣れるな、お前は…」

「…」

「…良いか、ルシファー。よく覚えておけ。自分が虐げられる側の人間であることに何の疑問も抱かなくなること。この世で最も慣れてはいけないことだ」

…今まで、俺がいじめられていることを、間違っていると言った人はいなかった。

それなのに、ルキハは。

「傷つけられる理由もないのに傷つけられるなんて、おかしいだろ」

「…」

「それとも何だ。お前、あいつらに恨みを買うようなことでもしたのか?」

「…何も、思い付かないです」

大体、初対面の入学式直後から攻撃され始めたのだから。

彼らに何か、恨まれるようなことをした覚えはない。

「なら、お前は悪くない。そしてあいつらはやっぱりクズだ」

「…」

「今度何かされたら、良いか。逐一記録するんだ。日記をつけろ。それが証拠になるから。今度はもう、問答無用で警察に駆け込もう。ダメージを負うのはあいつらだ」

「…」

「…さっきから黙ってるな。痛むか?」

いや、そうではなく。

痛いのは確かだけど。

「…そんなこと言ってくれる人、今まで誰もいなかったな、と…」

「…」

「あなたの言う通り…傷つけられるのが当たり前になってしまっていたんですね」

自分が虐げられることに、慣れてしまっていた。

そのことに、今になってようやく気づいた。

「なんか、その…。ありがとうございます」

「…お前」

「…はい?」

ルキハは俺を見て、驚いた顔をしていた。

何故驚くのかと思っていたら。

「…笑えるんだな、ちゃんと」

「…」

「笑ってるところ初めて見た」

…俺、今。

「…笑ってました?」

「笑うと言うか…。微笑むって感じだけど…」

そうか。俺、微笑んでいたのか。

鏡を見てないから分からない。

笑うって。何年ぶりだろうな。

「人生は短い。泣いてるよりは、笑ってた方が良いと思うぞ」

「…そうですね」

いつ以来、だろうか。

心がこんなに、軽くなるのは。
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