The previous night of the world revolution
非合法組織。マフィア。奴らこそ、このルティス帝国に巣食う闇そのものだ。

人の弱味に付け入って金を吸い取り、絞り尽くしたらあっさりと殺す。そこに正義はないし、奴らはそれを悪だとすら思っていない。

僕がそう思うようになったのは、僕が帝国騎士官学校に入る二年ほど前。

まだスヴェトラーナの屋敷で暮らしていた頃、僕は思想教育の一環で、とあるマフィアによって家族を殺された者に話を聞いたことがある。

その話は、僕にとっては非常に心に残るものだった。

それまで僕はルティス帝国の名家、スヴェトラーナ家の出身ということもあり、所謂温室育ちのお坊っちゃまだった。

将来帝国騎士団に入る為に厳しい教育はされていたけど、衣食住に困った試しはないし、貧困などとは一番遠いところにあった。

それが当然とすら思っていた。

けれど僕が会った、あの憐れな被害者達は違っていた。

兄がマフィアにとんでもない利息で金の貸付を受け、借金を返せなくて、その兄を殺された。

多額のみかじめ料を払えなくて、経営者だった親を殺された。

娘がレイプされたけど、犯人がマフィアの人間だった為、事件を揉み消された。

弟が、そうと知らずにマフィアの事務所の壁にスプレー缶で落書きして、腕を切り落とされた。

そんな生々しい話を聞かされ、僕は酷いショックを受けた。

マフィアというのは、なんという恐ろしいことをする人間なんだ、と。

ルティス帝国においては、確かに彼らは世間的にも悪だと認められているが、一方で必要悪であるともみなされている。

けれど僕に言わせれば、あれらは必要でも何でもない。

彼らは悪だ。人としての倫理も人情も一欠片も持ち合わせない、人でなしだ。

騎士官学校に入り、知識を深めていくにつれて、僕は更にその認識を強くした。

数年前に聞いた体験よりも、もっと悲惨な話もいくつも聞いた。

人を人だと思わない、あの悪魔のような人間達は、ルティスには必要ない。

いなくなるべきなのだ。

この国は良い国だ。豊かな国力、豊かな文化がある。そして何より、正義を全うする国だ。

僕は自分の生まれたこのルティス帝国が好きだ。

だからこそ、マフィアはこの国から、根こそぎ消さなければならない。

その思いのもとに、僕は研鑽を積み、優秀な成績で騎士官学校を卒業した。

僕の努力が報われたのか、なんとその春から、僕は帝国騎士団四番隊隊長という、大役を仰せつかった。

こんな大抜擢、滅多にあることではない。

実際僕が初めての例なのではないかと思ったが、そうでもないらしく、数年前に僕と同じように卒業後すぐ隊長に任命された人がいるらしい。

けれどもその人は、今は退役したそうだ。

何にせよ、僕は権力を手に入れた。それはつまり、ようやく国の為に働けるということだ。

早速僕は、昔からそうしようと思っていたように、ルティス帝国にある数々の非合法組織を取り締まる活動を始めていた。
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