The previous night of the world revolution
「俺だってアホじゃないんだから、そのくらい分かりますよ」

「…そうか…」

だって、最近の彼女…。男嫌いにしては、俺との距離が近かったもんな。

さっきのお誘いだって、恐らくルーさんの為というのは建前で…本音のところは、俺と一緒に出掛けたいんだろう。

だから、さっきあんなに…もごもごしていたのだ。

それくらいの察しはつく。以前の、腑抜けていた頃の俺なら、多分気づかなかっただろうけど。

男女のことは今やプロも同然となった俺に、分からないはずがない。

彼女が俺に対して少なからずの好意を抱いていることは、知っている。

もうずっと前から、そのことには気づいている。

「…気づいているのに何も言わないのは、お前にその気がないからか?」

「仕事じゃないですからね。彼女を落とす必要はない」

彼女は家族だ。他の、リーフリルやシャリヤと違って、彼女は守るべき、大事な仲間だから。

だから、無理に俺に溺れさせる必要はないのだ。

「ねぇルルシー。俺は恐らく、世間的に見れば、最低最悪の人間ですよ?」

「…」

言わずもがなである。正義を裏切り、人を殺し、女を騙し利用し、骨の髄までしゃぶり尽くして、彼女達に報いることもなく用が済めばゴミのように捨てる。

それらの行為を、ただ帝国騎士団への復讐の為に行う。

俺にはもう、正義はない。貫くべき信念もない。

何の救いもない人間だ。

そんな人間を。

「俺はシュノさんに相応しい人間じゃない。そうでしょう?」

「…」

「そもそも、誰かと幸せな家庭を作るなんて、俺にはもう無理ですよ」

これだけ人の血にまみれた人間が、人並みの幸せを願うのはおかしいだろう。

願おうとすら思わない。

あんな家に生まれた時点で、俺にそんな選択肢はないのだ。

「…じゃあ、シュノの気持ちには答えない、と?」

「…そう、なりますかねぇ」

家族としては、彼女は好きだ。

でも、それ以上の仲になれるとは思えない。

俺の心の中に、彼女がすっぽりと入り込む余裕はないのだ。

もっと汚いもので、俺の心は既に埋まってしまっている。

家の名前への恨み。騎士官学校への恨み。帝国騎士団への恨み。ローゼリア女王への恨み。

いくつもの恨み、妬み、そして憎しみだけで、今の俺は成り立っている。

だから、それを捨ててしまう訳にはいかないのだ。

「俺のことなんて、誰も好きにならない方が良いんですよ」

俺を好きになった女の末路は、大抵悲惨なものだ。

だから、シュノさんにはそうなって欲しくない。

彼女が大事だからこそ、彼女は俺に近寄らない方が良いのだ。

「そう思いません?」

「…思わないな」

へぇ。

「何で?」

「シュノの幸せは、お前じゃなくてシュノが決めることだからだ」

…そうか。

…まぁ、そういう考え方もあるかな。

「それと、俺は昔のお前も知っているが」

「うん?」

「昔も今も、お前は悪い奴じゃないぞ」

「…」

…そんなことを言うのは、この世でルルシー一人だけだ。

「それだけは忘れるなよ」

「…ルルシーがそう言うなら」

昔はともかく、今も、とは。

…なんか、調子狂うな。
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