The previous night of the world revolution
「…」

…不思議だ。

身体の、何処も痛くない。

こんな当たり前のことを不思議だと思うようになったのだから、俺も相当いじめられ慣れていたらしい。

教官からの過剰な扱きは相変わらずだったが、それでも寮での生活が苦にならなくなったことは大きかった。

随分、楽になった。

こんな日が来るとは…。

暴力から解放された喜びを噛み締めながら、俺は今日も一人、教室で窓の外を眺めていた。

と、そこに。

「ルシファー」

「…」

…一瞬、誰の名前かと思った。

殴られ慣れてはいるけれど、人並みに話しかけてもらうことには慣れていないから。

「おい。無視をするな」

「…ルキハ…」

自分が呼ばれたのだと理解して、顔を上げると。

俺の救世主、ルキハがそこにいた。

「何か?」

「食堂、一緒に行こう。お前は痩せ過ぎだ」

「…」

食堂、一緒に行こう。

…今、そう言ったか?

「なんて顔をしてるんだよ…」

「…いえ…」

「良いから行くぞ。お前は監督する人間がいないと食わないだろ」

おっしゃる通りである。

ただ…そんな風に俺を誘う人間がいるとは思わなくて。

どうにも、それに戸惑ってしまう。

「おい、ちょっとルキハ」

そこに、別のクラスメイトが来た。

「何だ」

「お前、何やってんだよ。こいつを誘うなんて…」

…あぁ、確かに。

それが正しい反応だ。

でも、本人の前で言うのはやめてくれないか。

「何が悪いんだよ。クラスメイトだろ?」

「クラスメイトだけどさ…。でもこいつは」

「お前らは、本当に帝国騎士希望なのか?」

「…は?」

ルキハはまたしても、酷く軽蔑したような顔でクラスメイトを見た。

「人を見下して、差別するのがお前らの正義なのか?帝国騎士以前に、人間としてどうかと思うぞ、それは」

「…」

面食らったように、クラスメイトはぽかんとしていた。

思ってもみなかったのだろう。

「さぁ、行くぞルシファー」

「え、あ…はい」

ルキハに無理矢理立たされ、俺はルキハと共に教室から出た。

「…あの、ルキハ」

「うん?」

「…あなた、良かったんですか?クラスメイトと仲良くするんじゃ…」

波風立たないように。弱小貴族だと馬鹿にされない為に。

クラスメイトとは仲良くするつもりなのではなかったのか。

あんなことを言ったら…もう溶け込むことなんて出来ない。

「あぁ、それは…別に、もう良いんだ」

「良いって…」

「演技するのも疲れるし、それに…」

それに?
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