The previous night of the world revolution
近くの喫茶店に入り、俺達は昔話に花を咲かせた。

ある程度昔の話をしたら、今度は、今の話になった。

自分のことは適当に誤魔化しておいて、俺はルシアナの話を聞くことに徹した。

彼女はどうやら、まだ女性活動を頑張っているようだった。

はぁ。まぁ大変なことで。

そういや俺も昔は頑張ってたんだけどなぁ。今や女性の権利を踏みにじるのがお仕事みたいになってる。

皮肉なことだな。

女性活動に勤しんでいるけれども、思うように進まないそうで。

彼女は、酷く気に病んでいるそうだった。

俺は上手くそれを慰めつつ、少しずつ彼女の心に近づいていった。

弱っている女ほど、付け入りやすいものはない。

「…ルシアナさんは、どうしてこのような活動を?」

彼女が良い感じにこちらに気を許したところで、俺は核心に迫る質問をした。

以前は、気になりつつも聞いてはならないことと思って敢えて尋ねなかったが。

今や、そんな気遣いをすることに何の意味があるだろうか。

「…私の、父が…かなり横暴な人でね」

ルシアナは、苦笑気味にそう答えてくれた。

この質問に大した躊躇いもなく答えてくれるとは。これはもう落としたも同然だな。

いつもの服じゃなくて今日はダサい格好だから、手間取るかと思ったが。

ルレイアフェロモンとやらは、今日も健在であるらしい。

「ルシアナさんのお父様が?」

「えぇ。前時代的な考えの人でね。男尊女卑が根強い人だったの。私の目の前で母を殴ったり、怒鳴ったりするのは当然。私自身も殴られたことがあるわ」

…成程。

「それで嫌になって、でもこの国ではまだ、私と同じように女だからって虐げられている女性が一定数いるって知って…私は女性の権利を守らなくちゃいけないと思ったの。それが、私が活動を始めたきっかけ」

「…そうだったんですか」

そんな感じの事情があったんだろうと思っていたら、本当にそうだった。

以前の俺だったら、心から同情して、強い人だなぁと思っただろうが。

内心、今やそんなことはどうでも良かった。

マフィアにいれば分かる。闇を見ながら生きてきた人間はいくらでもいる。

その一人一人にかかずらっている余裕はない。

そういう世の中なのだ。

「それは…ルシアナさん。大変な思いをされたんですね」

「…えぇ、そうね」

「あなたは本当に強い女性だ。強くて、気高くて…」

俺はそっと手を伸ばし、彼女の頬に触れた。

ルシアナは、その手を振り払わなかった。

…いけるな、これは。

「…美しい人だ」

「…」

最大限艶を持った声で囁くと、彼女は恍惚とした表情を向けた。

…女性の権利がどうこう言う割には、意外に軽い女だな。

まぁ、やりやすくて助かる。

「…場所、変えましょうか。ルシアナさん」

「…あの、あなたの…名前を聞いても良い?」

頬を赤く染めながら、彼女は小さな声で尋ねた。

あぁ、そういや彼女は俺の名前を知らないんだったな。

「…ルレイア」

今や、俺の名前を隠す必要はなかった。

そちらが、俺の本当の名前なのだから。

「ルレイア・ティシェリー」

「ルレイア…」

ルシアナは、いとおしげにその名前を呼んだ。

…完璧だ。







「な、何あれ…?」

…彼女の手を取って近場のホテルに向かう途中、腕を組んで恋人のように歩く俺達の姿を見つけた者がいたことに、俺は気がつかなかった。


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