The previous night of the world revolution
そして。

「…私もね、自分の父親のことは、よく知らないの」

シュノさんは、ようやく本来語りたかったことを口にし始めた。

「母親はいた。いたけど、良い母親じゃなかった。家にはほとんど寄り付かない人で、顔を見るのは月に一度くらいだった」

成程。

俺の母親もろくな人間ではなかったが、シュノさんのところも相当だな。

「それと、兄。兄がいたの。父親は違うんだけど」

「へぇ、お兄さんが」

「私がマフィアに入ったのは、その兄が元凶なの」

…兄の存在が、どうなって彼女をマフィアに入れたのか。

実に興味深いところだ。

「…うちはね、ルレイアのところとは違って…。兄妹仲は良くなかった。父親が違ってたからかな…。お互い干渉しないように暮らしてた」

「そうですか…」

「…私、その兄にレイプされたの」

「…」

…あぁ、そうだったか。

だから。シュノさんは男が嫌いだと。

「突然だった。本当にいきなりで…。抵抗も出来なかった。怖いのとパニックで、何も考えられなかった」

「…」

俺は何て答えるべきだろう。

俺には、想像するしか出来ないことだから。

シュノさんの苦しみを、肯定も出来なければ否定も出来ない。

ただ、黙って聞くだけだった。

「全部終わった後、私は兄を殺さなきゃと思った。だって、絶対この一回で終わりじゃないもの。これからもきっと、私はいたぶられる。それは嫌だった。だから…私は、隣で寝ていた兄を、包丁で刺し殺した」

「…」

「それから家を出て、行く宛がなくてふらふらしていたところを、アシュトーリアさんに拾われた。あの人は、私を守ってくれた。私の母親代わりになってくれたの」

いくら、強姦されたからとはいえ。

殺したいと思って、すぐに殺せるだろうか。一人の少女が。父違いとはいえ自分の兄を。

彼女をそこまで歪ませるほど、養育環境が劣悪だったということなのだろう。

そして、その歪んだ少女を…アシュトーリアさんは掬い取った。帝国騎士団に捨てられた、憐れな復讐者を掬い取ったように。

俺にとってのルルシーが、シュノさんにとってのアシュトーリアさんなのだろうな。

「アシュトーリアさんのことは好き。あの人の為なら、私は喜んで命を捨てる。…あの人は、それを望まないけど」

まぁ、望まないだろうなぁ。

「同時に、私は男の人が嫌いになってた。アイズのことも、ルルシーのことも、アリューシャのことも家族だとは思ってるけど、それ以上の存在には、絶対なれないと思ってた。敢えて、距離を置いていた」

そういえば、俺が『青薔薇連合会』に入ったばかりの頃、ルルシー達もシュノさんを苦手だと言っていたな。

今では、一緒にルルシーの家に夕飯集りに行く仲なのに。

「男の人とは仲良くなれないと思ってた。仲良くなんてしたくもなかった…。…あなたに会うまでは」

「…」



…シュノさんの、告白は続く。
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