The previous night of the world revolution
俺の脅しを受け、青二才の四番隊隊長は思わず一歩後ずさった。

この程度で怯えてくれるな、雑魚め。

俺達を潰すつもりなら、そりゃやれば良い。それがお前の『正義』だと言うなら、大いにやれば良い。

やれるものなら、だけど。

とにかく、自分がどれほどアホなことを考えているのか自覚してもらったところで。

「さぁて、こんな蝋人形は置いといて、行きましょうか、親友。何か美味しいものもらいに」

「…そうだな」

ルルシーは溜め息混じりに頷いて、その場を後にした。

蝋人形は唇を噛み締めてその場に突っ立っていたが、後のことがどうなったのか、俺にはどうでも良いことだった。




「…喧嘩すんなって言ったろ、馬鹿」

その場を離れるなり、ルルシーが険しい顔で言った。

「俺だって、売られなきゃ買ったりしませんよ」

「そりゃそうだがな…」

「それにほら、あれは愛の鞭って奴ですよ。可愛い後輩に、理想と現実の区別を教えてやる為の」

「ただキレただけだろ、お前。だから派手な格好をするなと…」

またしてもお説教が始まりそうな予感。

「まぁまぁまぁ、ルルシー。過ぎたことは過ぎたことですよ。それにあいつ、意外とチキンだってことが分かって良かったじゃないですか」

ああいうのを、大言壮語と言うのだ。

言ってることは威勢が良いが、現実を伴っていない。理想を言うだけなら誰でも出来る。

あれは、ただ『正義』に酔っただけの偽善者だ。

それだけなら良い。我こそは正しいと信じる若者は何処にでもいる。

けれども厄介なのは、あの馬鹿に、それなりの権力があるということだった。

「…確かに、奴自身は脅威ではないが…。でも、ルティス帝国の全ての非合法組織を排除する、というあの思想は厄介だな」

「それですよ。やろうと思えばそれなりのことが出来ちゃうだけの権力はありますからね」

あながち机上の空論で終わらないのが痛いところ。あんな馬鹿の真骨頂でも、一応権力だけはそれなり。やろうと思えば出来る。

完遂までは出来なくても、俺達に深手を与えることくらいなら可能だろう。

全く忌々しい。子供に権力なんて与えて良いことがあると、奴らは本気で思っているのか?

「それにあいつはまだ若い。このままだといずれ、オルタンスやルシェの後に…騎士団長や、副団長になる可能性も十分ある。そのときは…」

「全く、これだから『正義』を拗らせたガキは厄介ですよ。ガキはガキらしく幼稚園にでも引きこもってれば良いのに」

大体この国に『正義』なんてものがあると思ってるのか?おめでたい奴だ。

騎士官学校は相変わらず腐ってるな。ありもしない正義を教え、ありもしない正義を神格化させる。

実に腹立たしい。

とはいえ、あいつは馬鹿正直に教えてくれたのだ。これから攻撃しますよ、と。これは幸いだった。

恐らく、くそったれな騎士道精神に基づいているのだろう。宣戦布告しないとフェアじゃない、とか。

相手が馬鹿で助かった。何も言わずに不意討ちされていれば、こちらもダメージを負うところだった。

攻撃されることが分かっているなら、対策も取れるというものだ。
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