The previous night of the world revolution
ルルシーの傍から一時離れて、俺が向かったのは、彼女のもとだった。

幸い、この人混みの中でもすぐに見つかった。




「…お久し振りです、ウィルヘルミナさん」

「…!」

俺の姿を見るなり、彼女ははっとした。

そして、何と言って良いのか分からない、という顔で視線を彷徨わせた。

やっぱり。嫌悪感は抱いていないようだ。

それなら大丈夫。憎まれていないなら落とせる。

「貴殿が…何故、ここに…」

俺が気まずい相手だからか、あるいは単に派手な格好をしているからか、視線のやり場に困っているようだった。

けれども、すぐにでも消えろ、と言われない辺り、あながち嫌われている訳でもなさそうだ。

素晴らしい。

「『青薔薇連合会』の代表として招かれましてね」

「…」

「少し、昔馴染みの顔を見ておきたいと思いまして」

別に嘘はついていないのに、ウィルヘルミナはぱっと顔を背けた。

「…貴殿は、我々の敵だ。賓客であるとはいえ、仲良く話をするつもりはない」

まるで言わされているかのような台詞だな。

言いたくはないけど、立場上言わなければならない。そんな様子だ。

まぁ、ここじゃ観衆が多過ぎるからな。

だから、俺もここで彼女を落とすつもりはない。

ただ、糸を一本繋ぐだけだ。

「…あなたは、俺を信じてくれると…信じていますよ」

「…え?」

あの頃と同じ笑顔で。

儚い笑顔で、俺はそう言った。

案の定効果覿面。ウィルヘルミナは顔を上げて、視線を逸らすのも忘れて、すがるように俺を見つめた。

「…あなたには、本当のことを知っておいて欲しいんです」

「それは…どういう、」

「ここじゃ話せません。また後日会いましょう」

これで良い。これで釣れたも同然だ。

俺はぱっと踵を返し、その場を離れた。

ウィルヘルミナが俺を引き留めるような仕草を見せたが、場所が場所であると彼女も気づいたのだろう。すんでのところで自制していた。

どうやら俺のルレイアフェロモンは、数年前からその片鱗を見せていたらしいな。

俺は、内心でほくそ笑んだ。

悪いですね。あなたに恨みはないけれど…これも仕事なので。

餌食に、なって頂くとしましょう。
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