The previous night of the world revolution
「…それは、どういう意味だ」

「俺が本当に、そんなことをする人間だと思いましたか?」

まさか、という顔。

どうやら彼女は、多少なりとも俺を信用してくれていたらしい。

そうでなきゃ、そもそも足も止めないだろうからな。

これは有り難い。

「少しは話を聞く気になりました?」

「…下らない戯言を聞く時間はない。言いたいことがあるなら…」

「勿論、時間は取らせませんよ」

彼女相手に回りくどいことをしていたら、さっさと逃げられてしまうからな。

いつもよりは緊張感を持って、口説くとしよう。

会話の内容は、色気も何もあったもんじゃないがな。

「…それで、ウィルヘルミナさん。あなたは本当に俺が犯人だと思ってるんですか?」

「質問には答えない。質問するのは私だ」

成程。あくまで会話の主導権を握るのはこちらだと。

過去、こんなにも上から目線の人間を口説いたことがあるだろうか。

「私は、貴殿が女王陛下暗殺未遂事件の犯人だと聞いた。青少年革新運動に被れて、陛下を殺そうとしたと。だが…それが間違いだと言うのか?」

「はっきり言いましょう、ウィルヘルミナさん。それは間違い。あなた方の勘違いです」

「…」

あぁ、言ってしまった。

言ってしまったからには、もう後には引けない。

「勘違い…というからには、それなりの理由があるんだろうな?」

「えぇ、ありますとも。海よりも深い事情がね」

それを早く話せ、と目で急かすウィルヘルミナ。

なんともせっかちなことだ。

俺としては、もう少しゆっくりと話したいのだが?

親交を深める余裕もないじゃないか。

まぁ良い。そんなに知りたいなら教えてやろうじゃないか。

自分達が、何を『正義』と仰いできたのかを。

そして少しくらい、後悔してくれ。

「俺はですね、ウィルヘルミナさん。要するに冤罪な訳です」

「何を根拠に?」

根拠も何も、俺は自分が冤罪であると知っている。

これ以上の根拠があるものか。

全く、これだから無知は困る。

「根拠を提示されても困りますね。証拠があるなら俺だって提示してますし…」

「根拠を示せないなら信じない。貴殿が犯人であると私が信じているのは、証拠を見せられたからだ。貴殿が証拠もなしに『冤罪だ』と言っても、信じるに値しない」

「いやはや、ご最も」

泥棒がいくら『私盗んでない!』と言っても、信用出来ないのと同じこと。

違うと言うなら、それなりのアリバイを示せ。

ウィルヘルミナの言い分はご最もなのだが、残念ながら、俺がはっきり白と分かる証拠は持ち合わせていないのだ。

だから、別の方向から攻めることにする。
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