The previous night of the world revolution
ウィルヘルミナは、険しい顔で俺を睨み付けていた。

信じては…いないようだが。

でも、嘘だと切り捨てることは出来ないようだ。

「…貴殿の話が、本当だとして」

ようやく絞り出した声は、猜疑心に満ちたものだった。

「何故、その真実を黙っている?オルタンス殿にでも、ルシェ殿にでも訴えれば…」

「あぁ、そうか…。あなたはオルタンスのことも信じてるんでしたね」

「…何?」

俺を裏切ったのがローゼリアだけだと思ったら、大きな間違いというものだ。

「言っときますけどね、女王とオルタンスは共犯です。あいつも俺が冤罪であると知っていますが、王家の秘密を守る為に、敢えて俺に罪を擦り付けた」

「…まさか…そんな」

オルタンスまでもが、と愕然とするウィルヘルミナ。

自分のいる組織がどれほど腐っているか、少しは理解しただろうか。

「知っているのはその二人だけです。オルタンスは真実の露見を恐れて、俺を姉とは会わせませんでしたから」

俺を姉と会わせずに、俺が犯人だと姉に刷り込んだ。

そうすれば姉だって、もう俺と会う気などなくなる。犯罪者など、と蔑ませて。

オルタンスの狡猾なことも腹立たしいが、姉の浅慮にも呆れたものだ。自分の弟を、少しくらい信用出来ないのか。

まぁ、姉一人に信用されたところで、今更どうなるという訳でもないけれど。

「それじゃあ…つまり、貴殿は何か。帝国騎士団に、裏切られたと…?」

「えぇ、そうなりますね」

もしこの話が本当なら。

この男は信じていた全てに裏切られ、行き場をなくして路頭に迷った。

そういうことになる。

ウィルヘルミナの考えていることが、手に取るように分かった。

信じまいと、信じてはいけないと思いながらも、俺の言葉を嘘だと切り捨てられない。

有り得なくもない話だから。オルタンスは情の薄い男だし、女王自身も冷徹とは言わないが、臣下に対しては素っ気なく、自分はかしずかれて当然と思っている節がある。

何より、ウィルヘルミナは。

俺が嘘を言っていると思えない。だからこそ、俺の言葉に足を止めた。今もこうして、俺の言葉に本気で葛藤している。

犯罪者の言葉など信じない、と割り切った方が楽なものを。

まぁ、割り切られると俺は困るんだが。

「だが…証拠がない。貴殿が真実を言っているという証拠は、何処にも…」

証拠、ね。

それにすがるしかない。俺の言葉を信じない理由をつけるには、証拠がない、という一言を振りかざすしかない。

憐れなものだ。

「…証拠になるのかは分かりませんけど」

だから、その逃げを潰す。

俺は左手首のリングブレスレットを…傷を隠す為のその装飾具を、外した。
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