The previous night of the world revolution
通報してくれたのは、隣室の住人だった。

母親は俺を妊娠してから一度も病院にかからなかったし、俺を保育園などにも入れなかった。

それどころか、部屋の外に出すことさえなかった。

そうやって、俺の存在を社会から隠そうとしていたのだ。

けれど、一人の人間の存在を、完全にない者とするのは難しい。

近所の人達は、泣き声や生活音で、どうやらあの部屋には幼い子供がいるらしいと推測していたそうな。

そして何日も母親の姿が見えないということで、俺が取り残されているのではないかと、警察と児童相談所に通報してくれたのだ。

彼らが善意の通報をしてくれなければ、どうなっていたことか。

俺は行政に保護され、そして児童相談所の調べで、母親に育児能力はないと判断され。

結局俺は、郊外の孤児院に入れられることになった。

母親が今どうしているのかは知らない。知りたければ調べようもあるが、知りたくないからどうでも良い。

何処ぞでのたれ死んでいたとしても、俺の知ったことじゃない。

ちなみにルキハという名前は、そのとき入った孤児院の院長がつけてくれたものだ。

母親と一緒に暮らしていた頃は、名前さえもらえなかったという訳だ。

あんなクズみたいな女のもとで生まれて、よく三年も生き延びたものだと…今でも自分を誇らしく思う。
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