The previous night of the world revolution
あのとき、ルシファーが犯人だと聞いて、それを信じてしまったこと。

真実を、知ってしまったこと。

ルシファーに利用されていることを承知で、彼と寝てしまったこと。

後悔しかない。ありとあらゆる後悔が、私の心に渦巻いていた。

彼に会わなければ良かった。ルシファーの言葉に、耳を傾けることなく帰ってくれば良かったのに。

私は、足を止めてしまった。

それが間違いだった。真実なんて、知らない方が良かったのだ。

ルシファーのもとから帰った後、私の頭の中はぐちゃぐちゃだった。誰を恨めば良いのか分からなかった。

クリュセイス家の当主が、ローゼリア女王の兄であるという話。

ローゼリア女王暗殺未遂事件の本当の犯人は、そのクリュセイス家の当主であるという話。

そうだというのにローゼリア女王とオルタンス殿は、王家の秘密を守る為、またローゼリア女王個人の感情から、ゼフィランシア卿を守ることを選択し、何の罪もないどころか、女王を身を呈して守ったルシファーを犠牲にしたこと。

帝国騎士団に裏切られたショックから、ルシファーが精神を病み、自殺を試みたこと。

そして、復讐の為に『青薔薇連合会』に入ったこと…。

私には耐えきれなかった。許容しがたかった。いくらなんでも、この真実は重過ぎる。

私一人で背負うには、あまりにも。

けれどもこんな話を、他の誰かにすることも出来ない。

それは女王を裏切る行為であり、王家の秘密を暴露することは、国を乱すことにも繋がる。

真実を知れば、他の隊長達も揺れるだろう。女王とオルタンス殿に不信感を抱くだろう。

それでも王家を守ろうとする者。正義を行わなかった王家を非難する者。最悪、帝国騎士団は二つに割れる。

その隔たりは更に国を乱すだろう。そしてその隙を、『青薔薇連合会』が見逃すとは思えない。

内部抗争で弱体化した帝国騎士団を、『連合会』はあっさりと掌握し、ルティス帝国政府は『青薔薇連合会』の傀儡政権とされてしまうだろう。

私はどうすれば良い。真実を話し、正義を行うか?

それとも、国を守る為、王家を守る為に、真実を胸の中に秘めておくか?

『青薔薇連合会』にしてみれば、どちらに転んでも損はない。

後者にしておけば、ひとまず波風は立たないだろう。真実を私の胸の中にだけ収めておけば、国が乱れることはない。

けれど、私はそれに耐えられるか?

私だって、正義を志して帝国騎士となった身。それも、八番隊の隊長だ。人々を先導し、正しく導くのが役目だ。

その私が、王家と騎士団の腐敗を知りつつ、冤罪を見過ごす?

平穏を守る為に、かつての同僚を犠牲にして見捨てる?

それに、私はルシファーと寝てしまった。いけないことだと知りつつも、私は彼に逆らえなくなってしまった。

頭では、行ってはいけないことは分かっているのに。

呼ばれれば、また足を向けてしまう。問われれば、また答えてしまう。これは帝国騎士団に対するれっきとした裏切り行為であり、このことが発覚すれば、私はただでは済まない。

これらは、全て私の正義に反することだった。

でも正義を行えば…真実が白日のもとに晒されれば…そのときは。




考えれば、考えるほど無限ループを繰り返した。

もう考えるのが嫌で、忘れたくて…そしてまた、彼のもとに行った。彼に抱かれている間は、全てを忘れることが出来た。

そして事が終われば、また後悔に苛まれる。

正に悪循環だった。負のループだった。ルシファーは私のこの弱味につけ入っているのだ。

分かっているのに、私はどうしても、抜け出すことが出来なかった。




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