The previous night of the world revolution
ことさらに憂鬱なのが、週に一度の隊長会議であった。
この場に出ると、嫌でもオルタンス殿の顔を見なければならない。
あの聡い男のこと。私が何か疚しいものを抱え込んでいることを…勘づくのではないかと、私は気が気でなかった。
それに、この場にいるオルタンス殿と私以外の人間は、真実を知らない。
彼らは皆、オルタンス殿に騙されているのだ。
そして今や、私も彼らを騙しているも同然。
仲間達への罪悪感。そして何より、ルシファーへの罪悪感。
とても耐えきれそうにないものを、私は抱え込んでいた。
そんな私の心境に、気づいているのか、いないのか。
いずれにしても、会議は滞りなく進んでいった。
その日、四番隊隊長のルーシッド・スヴェトラーナ卿は、とある計画書を提出した。
言わずもがな、『青薔薇連合会』を含むルティス帝国の非合法組織を弾圧する為の計画だ。
以前から、彼はこのプロジェクトに打ち込んでいた。私が女性の権利活動に従事していたように、彼はこの活動に熱を入れているようだ。
今回は、もっと具体的なプランを打ち出してきた。
許可をもらえれば、すぐにでも始められますよ、というアピールである。
彼が何故、マフィアをなくそうとしているのかは分からない。確かに暴力的な組織ではあるし、帝国民にとっては脅威だろう。
だが、一方で…『青薔薇連合会』のような規模の大きな非合法組織は、ルティス帝国にとって必要悪であるという一面も、確かにあるのだ。
だから今まで、ここまで本格的にマフィアを弾圧しようとする帝国騎士はいなかった。
私自身も、そこまでマフィアに対して敵意を抱いているという訳ではなかった。
…今までは。
今となっては、もうどちらが悪なのか分からない。私は帝国騎士団を正義と信じてきたけれど、最早帝国騎士団こそ正義、とは言えなくなっている。
王家の為なら、無実の仲間でも平気で切り捨てる帝国騎士団と。
家族の為なら、何がなんでも仲間を守り抜こうとする『青薔薇連合会』と。
一体、どちらが正義なのだろう?
…またしても深い負のループに陥りかけた私を、アドルファスの声が引き戻した。
「おいおい…。なんか、苛烈になってるなぁ。前はもう少し現実的だっただろう」
アドルファスは、計画書を指でとん、と叩いた。
彼の声で、私ははっとした。
ぼーっとしていてはいけない。オルタンス殿に勘づかれてしまう。
改めて計画書を読むと、確かに、以前彼が打ち出してきたプランに比べて、かなりきつくなっている。
出来るだけ、早期にマフィアを排除したいようだ。
「…先日の、帝国騎士団の記念式典にて『青薔薇連合会』の幹部に会い、私は確信しました」
『青薔薇連合会』の幹部と聞いて、私はどきり、とした。
それは恐らく…彼の、こと。
咄嗟に脳裏に、彼の妖しげな肢体と、そして左手首の傷痕が浮かんだ。
「彼らの凶悪性は予想以上です。悠長にしてはいられない。出来るだけ早期に、この国からマフィアを消さなくては」
ルーシッド卿は、決意に満ちた目をして言った。
…彼には、彼なりの理由があるのだろう。マフィアを許せない、何かが。
けれども私には…とてもではないが、あの人をこれ以上、傷つけることなど出来そうもなかった。
この場に出ると、嫌でもオルタンス殿の顔を見なければならない。
あの聡い男のこと。私が何か疚しいものを抱え込んでいることを…勘づくのではないかと、私は気が気でなかった。
それに、この場にいるオルタンス殿と私以外の人間は、真実を知らない。
彼らは皆、オルタンス殿に騙されているのだ。
そして今や、私も彼らを騙しているも同然。
仲間達への罪悪感。そして何より、ルシファーへの罪悪感。
とても耐えきれそうにないものを、私は抱え込んでいた。
そんな私の心境に、気づいているのか、いないのか。
いずれにしても、会議は滞りなく進んでいった。
その日、四番隊隊長のルーシッド・スヴェトラーナ卿は、とある計画書を提出した。
言わずもがな、『青薔薇連合会』を含むルティス帝国の非合法組織を弾圧する為の計画だ。
以前から、彼はこのプロジェクトに打ち込んでいた。私が女性の権利活動に従事していたように、彼はこの活動に熱を入れているようだ。
今回は、もっと具体的なプランを打ち出してきた。
許可をもらえれば、すぐにでも始められますよ、というアピールである。
彼が何故、マフィアをなくそうとしているのかは分からない。確かに暴力的な組織ではあるし、帝国民にとっては脅威だろう。
だが、一方で…『青薔薇連合会』のような規模の大きな非合法組織は、ルティス帝国にとって必要悪であるという一面も、確かにあるのだ。
だから今まで、ここまで本格的にマフィアを弾圧しようとする帝国騎士はいなかった。
私自身も、そこまでマフィアに対して敵意を抱いているという訳ではなかった。
…今までは。
今となっては、もうどちらが悪なのか分からない。私は帝国騎士団を正義と信じてきたけれど、最早帝国騎士団こそ正義、とは言えなくなっている。
王家の為なら、無実の仲間でも平気で切り捨てる帝国騎士団と。
家族の為なら、何がなんでも仲間を守り抜こうとする『青薔薇連合会』と。
一体、どちらが正義なのだろう?
…またしても深い負のループに陥りかけた私を、アドルファスの声が引き戻した。
「おいおい…。なんか、苛烈になってるなぁ。前はもう少し現実的だっただろう」
アドルファスは、計画書を指でとん、と叩いた。
彼の声で、私ははっとした。
ぼーっとしていてはいけない。オルタンス殿に勘づかれてしまう。
改めて計画書を読むと、確かに、以前彼が打ち出してきたプランに比べて、かなりきつくなっている。
出来るだけ、早期にマフィアを排除したいようだ。
「…先日の、帝国騎士団の記念式典にて『青薔薇連合会』の幹部に会い、私は確信しました」
『青薔薇連合会』の幹部と聞いて、私はどきり、とした。
それは恐らく…彼の、こと。
咄嗟に脳裏に、彼の妖しげな肢体と、そして左手首の傷痕が浮かんだ。
「彼らの凶悪性は予想以上です。悠長にしてはいられない。出来るだけ早期に、この国からマフィアを消さなくては」
ルーシッド卿は、決意に満ちた目をして言った。
…彼には、彼なりの理由があるのだろう。マフィアを許せない、何かが。
けれども私には…とてもではないが、あの人をこれ以上、傷つけることなど出来そうもなかった。