The previous night of the world revolution
これで、賛成五、反対四。

あとはオルタンス殿次第だ。

彼が賛成すると言えば、『青薔薇連合会』との全面戦争に発展する。

私は恐ろしくて堪らなかった。彼らと戦うなんて、そんなことは出来ない。

何より、私は今や、スパイも同然だ。

ルシファーは容赦なく、私に帝国騎士団の情報を流すように言うだろう。

そうなれば私は、帝国騎士団に所属しながら、帝国騎士団の情報を売る裏切り者になる。

それだけではない。ルシファーを再度、傷つけることになる。一度裏切ってしまった彼を、また傷つけてしまうのだ。

そんなことは、私には出来ない。

なら、私も帝国騎士団を裏切る?『青薔薇連合会』に寝返る?

それも出来なかった。そんなことをすれば、私の問題だけでは済まない。家族にも、部下にも多大な迷惑をかける。それに…私には、マフィアの黒に染まる勇気がなかった。

オルタンス殿が賛成する、と言ったら、私はどうすれば良いのか。

頭が真っ白になっている私に気づかず、オルタンス殿は、いつも通り淡々と言った。

「…悪いが、俺は反対だ」

彼がそう言ったとき、私は安堵のあまり溜め息が出そうになった。

これで、賛成五、反対五。この場合は、騎士団長であるオルタンス殿の意見が優先される。

つまり、この計画は実行に移されない、ということだ。

「…理由をお聞きしても?」

ルーシッド卿は、明らかに落胆した様子だった。

「他のマフィアならいざ知らず…今の『青薔薇連合会』を攻撃するのはリスクが大き過ぎる。コストもかかる。何より、彼らには理性がある。勢力を拡大させても、無闇に権威を振るって帝国民を脅かすようなことはしていない。我々が手を出さない限りは」

「…」

「わざわざこちらから喧嘩を売る必要はない。攻撃してくるなら、あくまで向こうからであるべきだ」

オルタンス殿が言うのは、つまり。

今のところ害はないのだから、放っておけ。

自分から藪をつついて、蛇を出す必要はない、と。

成程、彼らしい意見ではある。

それに、オルタンス殿は恐れてもいるのだろう。

アドルファス殿と同じように。ルシファーのことを。

彼を怒らせたら、どうなるか。オルタンス殿も分かっているのだ。

だから、こちらから攻撃することはしない。

ルーシッド卿には気の毒だが、賢明な判断だ。

結局、その日の会議ではルーシッド卿の計画は採択されることはなかった。



…しかし。



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