The previous night of the world revolution
会議が終わり、会議室を出ようとしたとき。

「…ウィルヘルミナ」

抑揚のない声に呼び止められて、私は心臓が飛び出そうになった。

振り向くと、相変わらず表情を感じさせない能面のような顔をした、オルタンス殿がいた。

「…何か?」

彼が、私に一体何の用だ。

「いや。随分…挙動不審だったものだから、気になってな」

「…」

「そもそも、何故ルーシッドの計画に反対した?貴殿の元部下は、『青薔薇連合会』のスパイだったのだろう?」

ルキハ・シェルシュ・ティグラーダのことだ。

ルシファーを、『連合会』に引き入れた張本人。

「…別に、彼を恨んではいません。それに…賛成した者の中には、感情で動いているように見えた者もいましたから」

私は取り繕うように、理由をつけた。

だが、嘘ではない。少なくともルーシッド卿とルシェ殿は、感情で動いていた。

『青薔薇連合会』及び、マフィアが憎いから。

弟が憎いから。

それだけの理由で計画に賛成していた。感情がなければ、もっと冷静であれば…少なくともルシェ殿は、計画には反対したはずだ。

彼女も元は、とても冷静で、客観的な判断の出来る人だから。

弟への憎しみで、冷静さを欠いているのだ。

「…本当に、それだけか?」

「…えぇ、それだけです」

「顔色が優れないのは?」

「…単に体調が悪いだけです。大したことはありません」

そういうことにしておくしかない。

「…そうか。それなら良いんだ」

オルタンス殿は、くるりと踵を返し、私に背を向けた。

彼が続けて言った言葉に、私は戦慄した。

「…何か、他の者が知らないことを、知っているのではないかと思ってな」

「…!」

「体調が悪いだけなら、良い。ゆっくり休んでくれ。呼び止めて済まなかった」

…私は、すぐにでも彼の肩を掴まえたくなった。

どういうつもりで、どんな神経をしていれば、ルシファーのあれだけの憎しみを受けて、平然としていられるのか、と。

どれだけ非情になれたら、仲間を裏切ることが出来るのか、と。

でも、私の足は凍りついたように動かなかった。

ただ、身体を震わせるだけだった。

…私、私は。

一体、どうすれば良い…?





私は、我が身を呪った。こんな組織を「正義」と信じていた、愚かな自分を。

きっとルシファーも、同じ気持ちを味わったのだろう。





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