The previous night of the world revolution
十歳になる頃までは、俺は自分の将来に希望を持っていた。

毎日勉強漬け、稽古漬けでしんどい思いはしたけれど、それ以上に未来への憧れの方が強かった。

良いように、洗脳されていた訳だ。

というのも、俺には姉がいた。

姉が一人と、兄が一人。

長子である姉は、素晴らしい才能の持ち主であった。

姉は若くして、帝国騎士団二番隊の隊長となった。

つまりルティス帝国で、二番目に強い人間、ということだ。

姉は俺にとっても、ウィスタリア家にとっても、誇りであった。

姉の栄華を見ているから、俺は余計に憧れた。

一方で長男である兄は、姉と比べると酷く才能は劣ったものの、まずまずの実績をあげていた。

しかも姉の良いところは、ただ強くて賢いだけではなかった。

それだけだったら、俺は姉にあそこまで憧れはしなかっただろう。

姉は強くて賢いだけではなく、俺に対してとても優しく、そして美しい人だった。

いや、確かに普段は厳しいし、俺以外の人間に対しては冷たいと言われているのだが。

俺にとっては、優しい姉だった。

勉強で詰まる度、稽古で躓く度に、姉は辛抱強く励ましたり、時には叱ってくれたりもした。

俺をとても可愛がってくれた。だから、俺はそんな姉が好きだった。

一方で姉以外との家族とは、全くと言って良いほど親しくなれなかった。

父親は俺が生まれてから物心つかない頃に病気で急死した為、顔を覚えていない。

母親は非常に厳格で、古めかしい考えをした人だった。子供の世話は全て使用人に任せ、甘えさせてくれるということは一切なかった。

だから母親との会話は、いつも他人行儀で、事務的であった。

兄との仲は、悪いとも言えないが良くもなかった。兄はいつも姉に対する劣等感に苛まれていたせいか、姉とも俺とも、ほとんど関わりはしなかった。

俺になまじ、才能があったせいでもあるだろう。

そんな家庭環境だったから、家族と聞いて最も最初に思い浮かぶのは姉だった。姉のようになりたいとの憧れから、俺は毎日の厳しい稽古にも耐えられた。

そして俺は、徐々に才能を開花させていったのだ。
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